翠星のガルガンティア 少年と巨人 / 海法紀光

アニメ翠星のガルガンティアの前日譚。人類銀河同盟で生まれ育ったレドの幼年学校時代の物語。
人類銀河同盟がどういうものであるのか、アニメでもおおよそ明らかになってきた中で読むとなるほどと思う部分の大きい一冊でした。人類が人類のままに目指した宇宙空間への適応、管理するマザーコンピュータ、人類全体の生産性の極大化。過酷な環境に置かれる中で生存のために追求される効率と全体の最適化こそが人が人として生きる目的だという教義。それが確かに必然的にもたらされたものであったとして、では「人間らしさ」とはなんだろうと思わされるような。
レドが同じクラスとなる級友たちとの間に生まれる感情は、そんな社会においてもやはり一人一人の子供なんだと思わされるような部分が多くて、けれど前提の違う社会に生きるそれは私から見れば奇妙なものとして映ります。銀河同盟は画一化が破滅を招くことを防ぐため、個々人の感情を奪って全てを歯車にすることまではしていないし、ある程度の思想の自由は銀河同盟に有益な範囲で許しているので、なおさらにその歪さが際立って、それは明らかな軋みとなって積み重なっていく。徹底されない管理社会の中で、本人たちには得体のしれないものとして浮かび上がってくるそれが、ある種のホラーのようで。
病気を抱えて、無駄なものである音楽を生み出そうとして、過去の歴史を知り、教えられたもの以上のことを考える。アニメでレドが持ち続けている笛を作った少年、異端と呼ばれるロンドが知っていたもの、やろうとしたものは非常に端的にわかりやすくそれを表していましたが、それ以上に怖いいのが模範的な生徒であるミリイカという少女。男女での生殖が必要なために、性欲は外的にコントロールしても恋愛感情まではコントールしないけれどそれを教えもしないという、まさにあつらえたようなヤンデレ培養環境のなかでレドに好意を向ける彼女と、それが何物かわからないままに壊れていく二人の感情にはぞっとするものがありました。
そして仕組まれたものとイレギュラーの間でレドが直面する矛盾と、彼がそれをどのように処理したのかがクライマックス。アニメのレドがどういう状態で地球という星にやってきて、ガルガンティアの生活に触れて、最終的にどうしてああいう判断を下したのか。それがそうだったのかと非常に納得できる形で描かれていて、思わずアニメを最初から見返したくなります。レドという少年の本質は決して変わっていなくて、そこに生まれた歪みが本編であるアニメで彼をどのように動かしていくのか、そしてもう一度直面することになるだろうそれにどう対処するのか。アニメの最終回がますます楽しみになる一冊でした。