know / 野崎まど

know (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)

野崎まどがハヤカワJAでどうなるのかと思って読んでみれば、もうこれ以上ないほどにブレずに野崎まどだった一冊。
情報材があらゆるものに使われて、ネットワーク上に自動で集積する情報量が圧倒的に増え、それを処理するために人々が脳に電子葉を埋め込んだ近未来。あらゆるものが集合知となったことで変容するのは「知っていること」の意味。そして生まれたのは知ること/守られることの情報格差
かつて憧れた先生に言われたクラス5まで上り詰めた情報庁のエリート、連レルを主人公に描かれるそんな社会の描写は、今既に始まっていることの延長線上の未来で、ゾッとするようなワクワクするような感覚を覚えます。けれど135ページかけて描かれるそれはあくまでも序章に過ぎず、本当の物語が始まるのは行方不明だった先生と彼が育てたひとりの少女と出会ってから。そしてクラス9を名乗るその少女の存在から、野崎まどの小説が始まります。
天才というよりは異端。全てを知り、全てを操る、そんな人物が何かを為すために主人公を含めた全てを翻弄する。最原最早に代表されるそんなキャラクターたちに連なる少女は、圧倒的に全てを「知っていて」、そんな彼女が何を目指して動くのか。あまりにも異質なものへの恐怖を感じさせながら、ただ等身大の少女であることもアンバランスに両立したようなその少女との関わり、連レルがどこへ向かっていくのか。
悟ること、新しいものを知ること。予想のつかない、けれど全てが仕組まれたかのような展開の先にあったのは、タイトル通りに「知ること」の極限。知り得ないものの向こう側。そしてその先にあるエピローグ。
ラスト1ページ、ラスト1行。ゾクッっとするものがありました。
今と地続きになったようなこの社会についてもっと踏み込んだものが読みたかったとかそういう部分も諸々ありつつ、それでも野崎まどでしかない野崎まどのSFが読めたなあと思う一冊。面白かったです。