GOSICK RED / 桜庭一樹

まずは何よりもこのシリーズが、GOSICKの続きが読めることに感謝を。
海を渡ったニューヨークの地でグレイウルフ探偵社を解説したヴィクトリカと新聞社の駆け出し記者として働き始めた一弥が巻き込まれるイタリアン・マフィアがらみの事件は、更に大きな時代の動きへと繋がる不穏な気配を見せて、というシリーズの1冊目。
二人の懐かしいやりとりに、あの嵐をこの子たちは乗り越えたのだと感じると共に、不意に挟まれる妻、夫という表現にごろごろするのでなかなか読み進まなかったというのは置いておいて。
新大陸アメリカという国で暮らす二人の生活は旧世界で生きてきたヴィクトリカにとってはずいぶんと異なるものであると思います。特に旧世代の存在である灰色狼にして図書館塔に閉じ込められ続けてきた彼女にとって、大人・自由・社会と言ったもの自体が相容れないものだと思うのです。そして彼女は灰色狼で在り続けるし、そうでしか在ることができないままに新しい時代を迎えた。それでも彼女が砂糖菓子では戦えなかった子どもたちと違うのは、その知恵の泉という力を持っていることと、なにより隣に久城一弥という青年がいること。
この小説のなかで、ヴィクトリカは、オカルトの存在としてあるだけであれば向き合わなくてすむ(それであったが故に大きな嵐に巻き込まれてしまったのではありますが)、人付き合いだとかお金の話だとか生活のあれやこれやに晒されて、マフィアを巡る社会の闇に巻き込まれて、酷く辛い思いや怖い思いをしているように見えます。そして、そうやって彼女が向き合わされるものの象徴こそが、新世界、自由の国、アメリカなのかなと。新しいオカルトとしての精神分析、民衆を導くであろう新時代の大統領候補。また大きな流れに飲み込まれそうなこのニューヨークで、ヴィクトリカがどうやって生きていくのかというのがこのシリーズの楽しみになるのかなと思います。
前シリーズからきっと彼女はずっと根源的に救われてなどいなくて、この先の道も彼女にとって辛く厳しいものであり続けるのだとは思いますが、それでも彼が、一弥が隣にいるのなら、新しい時代に彼女は生きていけるのだと、そう願いたくなるような一冊でした。