安達としまむら 6 / 入間人間

「周りとの関係を真っ平らであろうとしすぎる。高さがあることを不自然に思う。あんたはうちの娘の子供とは思えないくらい誠実な子だよ」

誰にでもどこまでもフラットだった、いつからかそうなっていたしまむらという人が、祖母とその家の老犬との関わりの中で、少しだけ心の秤を傾けることを思い出す。それが何に繋がるかといえば、彼女は安達が自分に向けている感情がなんなのかを自覚して、その上でその存在に重みをつけることを選んだ訳で。
しまむらの内面が、子供の頃から大の仲良しで今では動くこともままならない老犬になった祖母家の犬との関係を通じて描かれる前半。そしてしまむらの変化が、安達との関係を確実に変えていく後半。安達の世界はしまむらで閉じていて、彼女は視野を広げようというアドバイスも拒んでいて。それを真向かいに受け止めるなら、正直ちょっとこの先の二人の行末にはハラハラする部分もあるのですが、なにはともあれ良かったね安達と、そして同じくらい一歩を踏み出したしまむらに良かったねと思いました。
まあ、しまむらが安達を優先するようになったからといって性格が変わるわけではなく、日野と永藤も変わらないだろうし、ヤシロもあんな感じだろうし。ただ、安達さんが私だけを見てな人なのでどうなるかなと。あと、樽見さんに関してはマジでやばそうで。修羅場というか血を見ないと良いねというか。
それにしても前半は入間人間の真骨頂という感じでした。古い家、朝の空気、その場の匂いや温度まで感じられそうな描写。子供時代と現在、元気だった親友の犬は年老いてもう会うのは最後の機会かもしれなくて。この郷愁と切なさ、どうにもならない無常の中で割り切れるような答えはなくても、少しだけ前を向いて生きていく感じ。こういう空気感を描かせたら本当に抜群だなと、改めて感じる一冊でした。