ストライクフォール 2 / 長谷敏司

 

ストライクフォール2 (ガガガ文庫)

ストライクフォール2 (ガガガ文庫)

 

 戦争の祭儀(スポーツ)化というのは、なんだか最近けものフレンズで見たような気がしたりしなかったりなのですが、戦争から派生したスポーツが、それでもなお最先端技術の実験場であり続けていたら、というお話。

1巻から匂わされながら、双子の兄弟と幼馴染の関係、そしてスポーツとしてのストライクフォールに焦点があてられていたことで表には出てこなかった、ロボットで編隊を組んで撃ち合い殴り合うという、ほぼそのまま戦争をスポーツ化したストライクフォールにおいて、慣性制御という技術を生み出したことがどういう意味を持つのか。競技自体が軍直系の流れを組むだけに、例えばモータースポーツのように企業の最先端技術の実験室では済まないそれが、雄星が起こした入れ替わりの事件以上に重い意味を持ってくるということを、嫌でも目の当たりにする2巻。宇宙をまたいだ軍事、政治、商業、民衆、そりゃあ長谷敏司作品が単純にスポーツもので終わる訳はないと思いましたが、ここまでの射程と深さを持ってこのストライクフォールというシリーズはあるのだなと思いました。

この作品世界において、重力制御がかつて地球と宇宙圏の関係を大きく変える技術であったように、慣性制御というものがどれだけ大きなイノベーションで、パラダイムシフトを引き起こすような代物であるか。それがストライクフォールに全く新しい才能が必要となる、全く新しいパワーの時代をもたらすと同時に、全宇宙のパワーバランスをどれだけ書き換えて、ひいては人々の生活を良くも悪くもどれだけ変えうるのか。この二つの軸が同時に描かれて、それがこの巻のラストの試合へと繋がっていくのですが、あくまでも競技としてのストライクフォールに己のすべてを掛ける雄星やアデーレ、ブラバッキー監督のような存在と、レイカの立ち位置レベルでの噛み合わなさに、どちらも理解はできるだけにやるせなさを感じます。

正直、戦争はすぐそこまで迫っている、どうにも良い未来は待っていなさそうに感じるのですが、最悪のスキャンダルと英雄化された弟、慣性制御という新しい時代の技術、これだけの物語を背負った鷹森雄星という1選手が、スポーツの起こせる奇跡を信じて、スポーツとしての論理を叫ぶことで、何か別の未来を見せてくれるんじゃないかという期待も込めて、続きを楽しみにしていたいと思います。