うそつき、うそつき / 清水杜氏彦

 

うそつき、うそつき (ハヤカワ文庫JA)

うそつき、うそつき (ハヤカワ文庫JA)

 

 嘘をつくと赤いランプが光る首輪。一定期間のバッテリー交換が必要で、固有のシグナルを発する発信機やレコーダーが内蔵され、無理やり壊そうとすれば装着者を絞め殺すそれが、すべての国民に義務付けられた国。そんな社会を、首輪外しという裏稼業をなりわいとした少年、フラノの目を通して見るような一冊。

全てが首輪によって国に管理され、倫理感の崩れ去ったディストピア。これはそういう社会と、そこに暮らす人を描いた物語で、実際フラノのもとに現れる依頼人は、首輪があるが故の不自由が、首輪を外した後の不自由を上回る何かを抱えた人たち。犯罪者であったり、訳ありの母であったり、娘であったり、亡命を試みる者であったり。そこには首輪があるが故に明らかになるものが確かにあるのですが、フラノの目を通して見えてくる世界はちょっと違うように思えます。

失敗すれば人を死に至らしめ、故意に見捨てることだってできる。そんな稼業を営むには彼はあまりにも幼く繊細で、強烈にリリカルな文章が彼の苦しみを直接伝えてくるような感じに引き込まれます。やっていることがやっていることだけに彼に待っている未来が明るい訳はなく、次々と明らかになるくせにどこにあるかわからない真実は、彼を追い詰めていきます。彼の前に現れる人たち。優しい本当、身勝手な本当。優しい嘘、身勝手な嘘。首輪があるから、首輪がないからではなく、人は嘘をつく生き物で、それがちょっと可視化されたことでは変わらない。むしろ、見えてしまうからこそ、それは強烈な形で表に出るのかもしれないと思いました。

世界の謎や首輪の謎が解き明かされるわけでも、誰が何をどうしたかったのかすらはっきりとはしない、これはあくまで何かを信じようとして嘘に翻弄された一人の少年の話。それでも縋った思いすら、最後の最後で彼が見た首輪の色につながっていくのであれば、やっぱりこの首輪というのは最低で残酷な仕組みで、けれど物語としてはこの上なく美しい嘘だったように感じました。