虚構推理短編集 岩永琴子の出現 / 城平京
コミックが先行した4編と書下ろし1編からなる短編集。まずは何より、鋼人七瀬から7年、続刊が出たということが嬉しくめでたいです。そして小説版は情報量が多いこともあって、一度マンガで読んだ話でもまた違ったところも見えてきて良かったです。そして書下ろしはまさしく「虚構推理」。やっぱりこの作品は面白い。
このシリーズのキモは、岩永琴子が探偵ではないということに尽きるのではないかと思います。彼女はあくまでも妖怪たちの「知恵の神」であり、それらの悩み事を解決するのが目的。情報源は妖怪が聞いたことから、凶器自体が付喪神、被害者の霊による証言なんていうこともあります。つまり、真実を解き明かす探偵とは目的も違えばルールも違う。謎解きにおいてはチートもいいところですが、それが妖怪の悩みを解決するとは限らないとも言えるわけです。
でも、その岩永琴子を中心に事件絡みの相談ごとをあの手この手で語るから、一風変わったミステリ的な何かが多彩なバリエーションででき上がる。人間の起こした事件を妖怪を無理やり納得させるために嘘の推理を作り上げることもあれば、逆に妖怪が絡んだ事件を人間に納得させるために真っ赤なウソの一大推理を構築することもある。怪異退治をしたかと思えば、自身が怪異のように恐れられることもある。本人は一切介在せずに、向こうの席で鰻を食べてるだけで謎解きパートが進展するなんてことすらあり得る。
何が嘘で何が真実か、そんなことはさしたる問題ではなく、人の法制度や倫理にも縛られない。ただ、琴子は妖怪たちの知恵の神として理をもって解を導く。嘘のような事実と、事実のような嘘が重なり合い、虚実が入り混じった中で、ただ理だけは貫かれている。それが大変に面白い作品だと思います。
しかし岩永琴子、マンガではビジュアルでずいぶん可愛げが補われているんだなって思いました。いやまあ好きだけど、好きだけどね!