【小説感想】東京タワー・レストラン / 神西亜樹

 

東京タワー・レストラン (新潮文庫nex)

東京タワー・レストラン (新潮文庫nex)

 

 お客様が心に抱えたトラウマを思い出のメニューで癒していく心温まるお料理小説と言われれば、ライト文芸系流行のお店屋さん×ちょっといい話的な路線だと思うじゃないですか。帯やあらすじを良く読むちょっと怪しい文言が含まれているけれど、まあ全体的な雰囲気はまさにそういう感じですし、確かに間違っていない。スタート地点とゴール地点は。

という訳で、近未来のコロニーと化した東京タワーの中、人気のないレストランエリア(諸事情で封鎖されている)で目覚めた記憶喪失の青年と、コックを名乗る牛人間(食用クローン牛が出力エラーで人型になった)が、ビストロヤクザ(とは?)の査察を切り抜けるために料理に挑むお話。ちなみに近未来東京タワーの料理はすべてゼリー的なもので機械から出力されます。味付けはマシンの操作次第。うーん、ディストピア

そんな感じで、屋根裏に引きこもるタイムトラベラーだとか、腹の虫(地球外生命体)に寄生された星屑屋から逃げてきた少女だとかと、まあなんやかんやでカプレーゼだったりポタージュだったりを困難に直面しながら作っていきます。この辺りの設定、キャラクター、ギミックが次から次へと大変に胡乱で、しかもそれがちょっと勿体ぶった文章で流れるように語られるのが非常にツボです。最高のほら話を読んでいる感じが素晴らしい。めっちゃ楽しい。

とはいえ、これだけだと心温まるお料理小説を求めて手にとった人がなんじゃこりゃとなっていないか若干の不安があります。でも、特盛になったすこし不思議とこんがらがったタイムトラベルミステリ的仕掛けを乗り切れば、ちゃんと優しさあふれる良い話なんです、これ。

レストランという居場所を守るため、意外な繋がりがあるものの、それぞれの事情と傷を抱えた全然別の人たちの気持ちが、一皿のナポリタンに集約されていく。妙ちくりんなものを積み重ねた上で、子どもたちの真っ直ぐな頑張りと、大人たちの諦めない思いと優しさが、溶かすようにトラウマを癒やしていくような、そういうお話。

読み終わった時には東京タワー・レストランという場所が愛すべき場所に思えてくる、大変に好みで、大変に美味しい一冊でした。面白かった!