【ゲーム感想】十三機兵防衛圏(ネタバレあり)

 

十三機兵防衛圏 - PS4

十三機兵防衛圏 - PS4

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: アトラス
  • 発売日: 2019/11/28
  • メディア: Video Game
 

ネタバレ無しはこちら。

 

 

最後までやってなるほどこういうことだったのかと腑に落ちると、やっている最中にどう思っていたのかがかなり抜けてしまったというか、今から記憶を消してもう一度遊びたいという気持ちがあるのですが、終えてみての感想を。

 

物語全体

2188年の大人たち碌なことしねーな! だとか、井田鉄也なにしとんねん! だとか、ここに至るまでに色々とあるんです。人はいつだって愚かで、執着や絶望から簡単にタブーを侵し、取り返しのつかない結末は簡単に導かれる。でもね、でも、人はそんな過去を乗り越えて、負の因果を断ち切って、進むこともできるのだと。

別にこの方舟の15人が、過去の人よりも優秀だとか進化してるなんてことはない。でも、滅び去った人類の先に、めちゃくちゃな方舟計画の先に芽吹いた命たちがあって、人の歴史はつながっていく。敵味方も善悪も話を進める中で感じ方がくるくると入れ替わる、愚かさも尊さもそのままパッケージングしたみたいな物語が、なんだか凄く、凄く良かったなと思います。

 

最初からみんな持っている知識を持ち寄ってお互いに協力していたらあっという間に解決していたこと多いんですよ。でもそうはできなかった。方舟計画はめちゃくちゃで、関係もこじれにこじれて、それが人類で、その果てだからこそ13人が力を合わせてた戦った最終決戦とこの未来が生まれた。宇宙に広がった数多の探査船の中に、そういう可能性があったという話な訳で。

 

それからこの話、生命倫理は地球に置いてきたとばかりに何でもありなのが面白かったなと。そもそもかなりマッドな感じの研究者たちが作ったクローンの存在が織り込まれた計画、記憶保存にAI化に模擬人格の構築、それをドロイドにインストールするのも、人間の脳にインストールするのも自由自在。更にはセクター0に保存されたデータから管理システムに再生される、ループ超えした人たちの存在。

そもそも舞台が仮想世界であったというところもありますが、肉体と人格の結びつきやその連続性に対して、認識はあれどこだわりがあまり無い感じがあります。DD426によるナノマシン剥離での人格と記憶の破壊を、自分の脳内ナノマシンに記憶を保存して模擬人格を構築することで、僕は僕だろ? と言ってのける沖野とかヤバくないですか?? そしてそれをみんな沖野司だと当たり前に受け入れているのも。

というかメインキャラクターたち、玉緒ドロイドだとか一周前メンバーへの扱いも、ミワコたちモブAIへの扱いも、とっくに死んだ森村博士の記憶から再生された人格である千尋の扱いも、生身の人である15人へのものと差がないように思うのですね。自分たちと同じものだと思ってる感じで、AIやドロイドに対しているという意識がそもそも無い。因幡深雪や2188年の事件のニュースを見るに、作品としてそれを認識していないわけではなくて、あくまでも彼らの作る新しい世界にはその概念が無さそうというか。

極めつけがエンディングでの、遺伝子操作でポッドに肉体を作り、仮想世界のAIたちを生身の人間として生み出すという郷登と東雲の計画で。めっちゃいい話風で語られますが、倫理的にはマッドサイエンティストの極みだなと思うのです。

そんな彼ら彼女らが、それだけのテクノロジーを持った状態から始まる新世界。どういう価値観の、どういう社会が生まれていくのか、ちょっと興味のある部分です。

 

あと余談ですが、このゲーム、森村千尋=冬坂五百里ちひろに顕著ですが、ダメ絶対音感があると真実にかなりショートカットできるなあと思ったりだとか。

 

 

キャラクターごとに雑感を。

鞍部十郎

若干存在感の薄い主人公。話は怪獣とロボット、壊れる日常、自分自身の謎と王道。

その実態は、DD426で壊れた和泉十郎の脳に玉緒(一周前)が作った人格を構築し、森村千尋は和泉十郎(426)の記憶をダウンロードし、脳内にデータとなった426が住み着きながら和泉十郎の記憶をちょっと入れようと頑張ったって、もはやキメラではそれは。なんだかんだ最終的には鞍部十郎として出来上がったようで何より。

426による誘導もあって薬師寺と結ばれたけど、この人格自体は製作者の玉緒の好みだったりしないのだろうかという疑惑が私の中に若干あります。

薬師寺の惚れた和泉十郎はまさしくヒーローという感じ。和泉十郎(426)はもう少し、何かちょっとうまいやり方があったんじゃないかとは思うものの、長い戦いお疲れ様という感じでした。エンディング、良かったねと。 

 

薬師寺

蹴り飛ばしたくなる猫型マスコットと始める魔法少女生活(武器の銃はゴツい)。あと色んな人に餌付けしてた印象。何を掛けてでも取り戻したい和泉十郎のため、腹立たしい猫に友人を撃って回らさせられる展開は辛さがありました。最終的に結ばれてよかったけど、彼女が鞍部十郎をどういうものとして受け入れたのかはちょっと分からない。

しっぽ(426)との関係は、2188年の回想を見てムカつく父親と素直じゃない娘の関係を模したものだったのかという驚きが。

というかこの作品、この人のためにはどんなことでもするっていう執着の形を見せる人多すぎじゃないですかね……。数え切れないループの中で業が溜まっていったのか。

 

関ヶ原

誰のルートに出てきても当たりがきつい。本人のルートを始めると記憶喪失で何もわからない。

ということで、なんだか好感度の低い子だったのですが、なんもかんも人当たりの悪さと井田にいいように利用された不運が悪かった。本人が常に冷徹というか、悲壮感がないからわかりにくいですが、悲惨な境遇ではトップクラスだったのだなあと。

 

冬坂五百里

遅刻遅刻と走ってたら校門前で謎のイケメンと衝突! 概念上の少女漫画! 友達と買い食いしたり恋バナしたりしながら、最終的には恋の力でロボットで怪獣にだって立ち向かっちゃう! みたいな。

森村千尋のこのループでの生体ですが、前週までの彼女の背負ったカルマから解き放たれて幸せそうで良かったです。まあ森村に記憶を植え付けられて乗っ取られそうになってたけど。

ちなみにルート分岐、猫に餌を上げるところがどうしても分からず延々と買い食いループに陥ったのが私がこのゲームで一番苦労したところです。

森村先生はなんだろう、頑張ってたのだけど、人に弱みを見せられない人だったのかなあと。 2188年の記録を消したり、自分だけでイージス作戦への変更を決めたり、この辺がもう少し誰かと協力して動けていたらと思いつつ、周りにいたのがああなった井田とかだしなあって……。

そして私が本作で一番びっくりしたのがちひろ=森村千尋クローン。三浦ルートで妹という刷り込みがあったのが完全に油断でした。そして目覚める森村博士(2188年)の記憶で、身体は子供! 頭脳は大人! な存在に。園児服の幼女が大人びたこと言ってるのですが、表情がうまく隠せなかったり、不安になると三浦から渡された縫イ包ルミを撫でる密やかなギャップが良き……ってなります。

そして記憶のコピーが簡単にできる世界で森村博士の記憶を呼び覚まされても、その存在が森村千尋のクローンであったとしても、三浦の妹としてのちひろを消さないでくれること、家族だと彼女の口から言ってくれたことが、凄く良かったなと思います。

 

三浦慶太郎

1945年の大日本帝国軍人の子。礼儀正しく真面目で思いやりのあるええ子やなあと。妹のちひろや玉緒さんを守ろうとしてるのも良い。年代設定的なところでシナリオの雰囲気がちょっと古い感じになるのも面白かったです。

南奈津乃とは運命の恋人。2188年からの縁。

1周前の三浦はAIとして機兵の制御システムになり、そこからBJというドローンになって南と大冒険をするのですが、礼儀正しく真面目で思いやりのある子なのは変わらずで、大事なデータと秘めた想いを胸に、仲間のために頑張る健気な小さいロボットになっていて最高でした。BJかわいいよBJ。

 

 

南奈津乃

宇宙大好き陸上部健康娘。BJというロボット(南は宇宙人だと思っている)と出会ったことで時間を超える大冒険へ向かう、一番ドキドキワクワクのジュブナイルをやっていた印象です。コミュ力も高くて友達も多い。この周だけでなく、あのどうしようもない2188年勢の中でも良い子。ただ、女子トイレのドロイド事件や、未来に置き去り事件等、好奇心が勝るのか危険に割と無頓着で、危ない目に多々あっている気も。

そして三浦とは運命の恋人。鷹宮とは運命の関係。

 

 網口愁

一見チャラい感じで、少し知ると世の中を斜めに見ている感じ。だけど、自分の考えはしっかり持って筋は通していくところがめっちゃ好きです。井田のこの周での生体ですが、同じ遺伝子でも環境の違いでこんなに違う育ち方をするし、主体はここにあるのだというのが、如月ではなく鷹宮を選んだことに現れているのかなと。

優先的にシナリオを開けていった結果、中盤早めに街が30キロ圏内しか存在しないことを知って、他のシナリオを読む度に、その街、実は周りは宇宙なんだぜって思っていました。

井田先生は執着の最終到達点みたいな感じなんですが、それを助けたかった如月AI自身に否定されて、すべてを犠牲にしてもループしか無いという方向に進む、ラスボス的なムーブでなんともこう。やってることは分かる、分かるけれど、その犠牲になった子たちの姿を散々見ているからどうしてもね……。そして利用しようとした東雲からの執着に邪魔されるのも因果というかなんというか。

 

比治山隆俊

帝国軍人にして、シリアスになってくる終盤にコメディ要素を一身に背負うアホの子。世界一美味いという焼きそばパンと大好きな沖野にしっぽを振る姿はまさに大型犬。そんな隆俊さんですが、軍人らしく覚悟が決まっていて、いざとなればこの上なく頼れるんですよね。

嗜好は分かりませんが、沖野の女装姿を見て一目惚れ。そこからは沖野にからかわれ遊ばれ振り回される姿が面白いです。人を人だと思ってないサイコパスな気配のある天才沖野くんが、比治山のことは気に入っていて、どんな扱いをしても絶対自分を好きでいてくれるみたいな信頼感を見せるのがいいんですよね……。2188年からの運命の2人、十三機兵のベストカップルは沖比治。

あと三浦と比治山と一緒に登場して、15人の1人な割にこの周ではあまり活躍の機会がなかった玉緒さん、2188年から1周前、今周と隙がなく真っ当な人間だったなあと。仮想現実の日本で社会性を身に着けてという博士の計画が、ねじ曲がった結果とんでもない体験を植え付けることになってはいますが……。

 

鷹宮由貴

これぞスケバンという感じの不良少女。父親のことで警察に弱みを握られ、井田の機関の手伝いをすることにという話ですが、まさかこのキャラでやるのが謎解きミステリ的な話になるのかと驚きました。

気づけば行動指針のほとんどをしめている幼馴染のなっちゃんこと南のこと好きすぎ大問題。まあ2188年での関係を考えると、感じるものがあるのかなとも。

あと鷹宮編で出てくる相葉こと玉緒ドロイド(426)が私はワトスンと楽しげで、なんだかんだ楽しんでるよなこの和泉十郎って思ったり。

 

如月兎美

ちっちゃくて可愛いけど生意気で賢くて気が強く芯も強いウサミちゃん。赤いメガネフレームが特徴的。典型的な不良で女子からの押しに弱かったりする緒方とのカップリングがめっちゃ好きです。そういうの、そういうの好きってなる。

あと、あの沖野を脅して事態の調査を始めるあたり怖いものなしやなと。

因幡深雪が1周前の如月というのは、網口編を先に読み進めていたことで逆に気がつかなくて、ああああ! となったポイントでした。そして生命倫理をぶっちぎりまくる物語の中で、如月(1周前)だけは現代の感覚で話してて馴染みやすい。

 

緒方稔二

突然始まる謎のループもので初めた瞬間??? となる緒方編。それが如月編を後からやって、このシーンか! ってなったり、比治山と沖野が何をしようとしていたのかを知ると話が繋がるのだからよく出来てるよなと。

緒方はまさに不良というリーゼントの男。喧嘩っ早い一匹狼のようで、筋の通った人情には厚いキャラクターで結構好き。如月とは本当にナイスカップルだと思います。

 

東雲涼子

DD426に侵されて記憶が失われていくわ、2064年の戦いの影響で傷だらけだわで、痛々しさのある東雲先輩。色々な人のシナリオで何かしてると思ったら、まさかこんな無為な活動に精を出していて、それが記憶障害のせいだなんて思わないじゃないですか……。起きる度に426を追うことだけを繰り返し、自分がやったことすら忘れているって、ほとんど痴呆症みたいな。

井田に執着し、井田の言うままにDD426を仕掛けて自らも侵され、井田の如月への執着を知って手にかけ、その記憶すら忘れて井田を想う。おまけに2188年では人類に絶望し、方舟計画をダイモスの襲来で無限ループに陥らせた張本人という、なんというか、もうなんというかなキャラクターなのですが、嫌いにはなれないと言うか、必死だったんだなというのが分かっちゃうのがやるせないです。

完全に人格が崩壊した後は、2064年の訓練時の記憶をダウンロードして、なんとなく落ち着いていた感じ。そしてエンディングの郷登との関係は額面通りに受け取っていいのか……?

 

郷登連也

メガネクイッとしながらメモをとる秀才タイプで合理性と効率性を是としていながら、その根底に森村先生への執着があるの、この作品のキャラクターらしいと思います。

終盤に開放できるシナリオで、ちひろ(森村博士)を問い詰めながら真相を解明していくことになるのですが、傍目に見ると幼稚園児を理屈で詰めまくる男というヤバい絵面になっているのがちょっと面白かったです。

東雲の元カレということで、過去の記憶で復旧した東雲先輩と結ばれたような雰囲気をエンディングでかもしだしつつ、この2人、井田と森村を遺伝子操作&ポッドで現実世界に召喚するために協力しているのでは??? という疑念が拭えない……。