【映画感想】Fate/stay night [Heaven's Feel] Ⅲ.spring song

 

春はゆく / marie(期間生産限定盤)(DVD付)(特典なし)

春はゆく / marie(期間生産限定盤)(DVD付)(特典なし)

  • アーティスト:Aimer
  • 発売日: 2020/03/25
  • メディア: CD
 

 色々思うところはあれど、観終えてまずは面白かったと言える映画でした。第二章で覚悟したものよりは、もちろんひどいこともたくさん起きるのだけれど、ずっと穏当だったというか、真っ当でヒロイックな物語をしていたと感じます。たぶん、士郎も桜も、最後までずっと人間だったというのが大きいのかなと思いました。

とはいえ、Fateシリーズつまみ食いでHFは初めてという身にはあまりの怒涛の展開と凄まじい画面と圧縮された情報で半分もわかっていないな? みたいなところもあり。説明はかなりしてくれるのだけれど、それでも足りていないままに突き進むので、これはこういうことかなと理解しようとしてる間にストーリーは3歩先まで進んでいるといった感があります。士郎と桜だけをフォーカスして見ていれば問題ないのですが、各々のキャラクターの物語にもぐっと踏み込むし、聖杯戦争自体の謎も明かされるので、全体として情報量が大変なことに。あと結末のところ、身体は消滅したみたいなこと言ってるから多分こうだと思うけどと言いながら後で調べましたね……。いやそうやって掘りだすとFateの深みなのは分かっている……。

3作通じて思ったのは、やっぱり桜のことは好きだなということ。HFの桜は間違いなく大罪人で、我欲に惑い、力に溺れた小さな少女だったのだと思いますが、それだけじゃないというか、情念がぎゅっと濃縮されていて、でもそれが凄く生っぽい、人間っぽいなと感じます。確かに狂っていて、仄暗く、湿っぽく、でもああこの子は人間なんだなという感じが強いというか。ufoの画面作りは無機質なイメージが強いのですが、その中でもとても湿った感触のある映画だったなと思います。

桜の見せる、我慢して我慢して我慢して自暴自棄になって、それでも可哀想だと思ってもらえば助けてもらえるってどこか思っているような、得てしまった力とアンバランスな未熟さ。自分で自分を追い詰めながら、けれどギリギリのところで耐えれてしまう強さ。救われたいと思いながら自分を一番最初に犠牲にして、なのにまだ救われたいとあがいているような、歪さの中にある強烈なエゴが彼女なんだろうと思って、それは酷く人間らしいなと思いました。自己犠牲は優しさではないと強く感じる物語だったというか。

人間やめてる、最初から狂ってると言いながら、ちっとも人間やめてなんかいないんですよねこの子。それを捨てられるほど強くなくて、それを捨てないでいられるくらいに強い、みたいなところでバランスされた結果があのマキリの杯なのだろうと。そして、桜もそうだったし、士郎もやっていることはとんでもないことであっても、あくまで一人の人間として手を伸ばせる範囲に手を伸ばそうとしたからこそ、HFはこういう物語になったのだろうなと思いました。なのでやっぱり好きです、このHFも間桐桜も。

そしてそんな物語の最後に、一見すれば幸せなシーンのようで流れる曲が「春はゆく」なのが、なるほど。この映画、確かに桜を取り巻く環境的な問題は解決しているのですが、桜自身は何かを乗り越えて悟ったり成長したりしてはいないですよね。士郎に救われて、それでも桜は桜のまま、過去を抱えて現在を、ただ先輩の隣にいる。これはそういう曲で。

楽しさでも苦さでもなく、ただ純粋に間桐桜のこれまでを、そしてこの先に通じるものを積み重ねた物語だったのだなという感覚が残りました。

あとライダー、セイバーオルタとのバトルがとんでも作画でものすごかったのはもちろんですが、桜に対するの想いが見えたのがとても良かったなと。ああそうかバビロニアのアナか……というのと、メデューサだもんね、呪いの子が化け物になっていくなんて黙って見てはいられないよねと。

それと遠坂さん、魔術師であることは性に合っているのだろうけど、多分向いてはいないのだろうっていう難しいラインのキャラクターで大変だなって思います。合理的で自分自身の目的にしか興味がないような在り方をしておきながら、親しい関係性が入ってくると情に流されるの、ただそれも魔術師らしいのか。いやーでもそんなお姉ちゃんを見ていたら桜は拗れるだろうなあと思います。姉妹仲良くなれてよかったなあと思いつつも、最後にそれ聞いちゃう? みたいなのもありますし……。いやだって、それもまた桜を呪うよ? ってなる。