魔女の戴冠 1 / 高瀬美恵

魔女の戴冠〈1〉 (幻狼ファンタジアノベルス)

魔女の戴冠〈1〉 (幻狼ファンタジアノベルス)

魔女学校に通う少女と、謎の青年の出会いの物語。
表紙とタイトルで買ってみた初幻狼ファンタジアノベルス。安心して読める感じのファンタジーで面白かったです。
科学の時代が過ぎ去り、魔法の時代となった世界。魔女学校に通う勝気な少女キアラの兄が、下働きをしていたマフィアの一家で無実の罪を被せられ私刑で殺される。その兄の復讐のためには手段は選ばないと夜の墓場で黒魔術の儀式を行っていたキアラと、墓場で野宿をしようとしていた宿なしの青年アーダルベルトが出会うところから物語はスタート。
序盤は魔女学校の生徒たちによるマフィア一家への盛大な嫌がらせ攻撃に、いきなりゲイバーに売り飛ばされてオカマになる主人公の青年と、この物語はどこに行くのだろうか状態だったのですが、キアラの兄の死の謎、そしてその兄を殺した殺し屋の変死、さらにちょっとボケたアーダルベルトの秘密が明らかになってくる辺りからは一気に面白くなりました。
キアラの思い込みの激しさからくる無鉄砲さや、アーダルベルトの何とも言えない掴みどころのなさ、そしてキアラの親友であるリィリィの年齢に見合わない程のしっかりした態度に、幼馴染であるリュディガーとアーダルベルトの噛み合ってるような噛み合ってないようなやりとりとキャラクターは魅力的。個人的にはオルテンシア先輩のダメ人間っぷりが好きだったり。
物語的にも向こう見ずなキアラが事件を経験して少しづつ成長していく物語としての側面もあったり、魔法を中心とする世界の中での異国民であるリィリィとキアラの価値観の相違が見えたり、アーダルベルトという人物の謎に関係しそうな要素が散りばめられていたりと色々な面から楽しめる感じが良かったです。その分それぞれのテーマ的な部分が薄くなっているようにも感じましたが、この辺りはこの先シリーズが進んでいく中でより掘り下げられることに期待ということで。
そんな感じで満足感の高い作品でしたが、世界観にしてもキャラクターの感情の流れにしても、著者の手が見えるというか、若干無理を感じる部分や詰められてないように感じる部分があったようにも。全体的に安心して読めるという印象のファンタジーなので、逆にそういう部分がちょっと気になるのかもしれません。
物語的にはまだ導入といったところ。アーダルベルトの過去にはどうやらかなり大きな秘密が隠されていそうで、ヘラヘラした顔の向こう側に何を隠しているかは謎のまま。さらにはリィリィの家族の動向や、禁じられたはずの国家間での争いの気配もあり。不穏な空気を孕みつつ2巻へと続く物語はこれから盛り上がって行きそうで、続きに期待したいと思います。