【小説感想】偶然の聖地 / 宮内悠介
6ページほどの掌編が重ねられていくのですが、積みあがっているんだか積みあがっていないんだかよく分からない、何とも奇妙な話が続いていく一冊。イシュクト山という願いが叶うという幻の山を中心にしながら、まずその山が西はシリア、東はカシミールから入るというところでんん? となって地図を確認し、その後も大真面な顔をして流れるように語られていく胡乱なエピソードたちにノせられるように旅に出る、そんなお話でした。
どこまで本筋にかかわってきて、どこまでいい加減な話なのか。事実に基づいたことはどこまでで、どこからが大法螺なのか。大量の作者による注釈は何なのか。世界医と世界のバグってなんだ。プログラミングの講義始まったんだけど? もしかしてメタフィクションなのか? というかこいつら誰だ? 今挟まった何の関係も無さそうな話なんだったんだ? と翻弄されながら完全にこの作品のペースに巻き込まれて、いつの間にか楽しくてしょうがなくなる不思議な一冊。こういう大真面目な顔をしながら事実からずれていく法螺話、大変に大好物なので最高です。
そして終盤にはなんとその散らかっていた設定や登場人物たちの物語がきちんと収束……収束したけどこれは何だ、本当にそれでいいのか?? みたいな着地を決め、真剣そうに見えて突っ込みどころ満載みたいな怪しげラインを最後まで駆け抜けていったのが大変よろしかったように思います。こんなのありって感じもありますが、個人的には断然ありの楽しい読書体験でした。短編集(超動く家にて)でも感じたのですが、私は宮内悠介作品はこういう変な話が好みなのだと思います。