【小説感想】ツインスター・サイクロン・ランナウェイ 2 / 小川一水

巨大ロケット宇宙漁SFという胡乱なジャンルとは裏腹に、旧い世界からの脱出を目指す女×女バディの王道冒険エンターテインメントでこの巻もとても面白かったです。しっかりした設定に話運び、キャッチ―なキャラクターに王道を行く展開は流石実績あるベテラン作家の仕事という感じ。

 

1巻ラストで何とか生還した二人でしたが、ダイはゲンドー氏に捉えられ、テラは強制送還され離れ離れに。ただそんなことであきらめる二人ではなく、それぞれに再会のため、そして広く自由な宇宙へ飛び出すために動き出します。立ちはだかるのは、氏族船の旧い常識……かと思えば話は周回者の来歴の秘密、ゲンドー氏の大きなたくらみへと広がって、二人は大きな事件の渦中に巻き込まれていきます。

次から次へと展開していく物語のスピード感やアクション、ゲンドー氏であればちょっと変に伝わった日本のような各氏族船の持つ独自の文化も魅力ですが、やっぱりこの作品と言えば宇宙漁。今回はニシキゴイ漁ということで、惑星の極点でオーロラの中、プラズマの滝を昇るニシキゴイと、それを捕らえんと取りつく宇宙船という、もうそれだけでワクワクする絵面が思い浮かぶ設定が素敵です。そしてただぶっ飛んでいるだけでなく、ニシキゴイが滝を昇る原理がしっかりしていて(私は物理の勉強をしてないのでなんとなくしか分かりませんでしたが)、その仕組みを解析し如何にそれを攻略するかという面白さもあるのが良かったです。

そういう意味では贅沢を言うと、クライマックスシーンはニシキゴイ漁が良かったなという気持ちもあります。ストーリーの流れ的にはそうならないのは分かりますし、この重力入り乱れるアクションのクライマックスも面白いのですが。

 

キャラクターでは、ダイとテラの二人の関係がやっぱり良いもの。すぐに頭に血が上るダイよりも、おっとりしていそうなテラの方がとんでもないことをやらかすのが、ベタですが良いバディだなと思います。あとはダイのゲンドー氏にいたころの元カノである瞑華が好きなキャラクターで。旧い社会に閉塞と反発を感じながらその枠組みの中でしか生きられない者が、それらを振り切って飛び出したダイに向ける好意と羨望と怨嗟の入り混じったどろっとした情念、最高でした。性格が悪いように見えて、根は良い子っぽいのも報われなくってポイントが高い。最後の一歩を踏み出せなかった彼女が、周回者の社会の中でどう生きていくのか、そういうスピンオフも読みたいなと思います。

 

都合の良いばかりではない事実を知っても、ついに何も保証されない汎銀河往来圏へ飛び出したダイとテラの二人。外から周回者に寄せられたメッセージ、人の想像力を借りて形を変える粘土という存在の怪しさなどなど、外の世界でもまだまだ気になる要素は残っているので、この先の彼女たちの冒険も読みたいし、まだまだ続いてほしいシリーズだと思います。

そしてゆくゆくはアニメ化を。劇場版でもテレビでも何でもいいのでなにとぞ。こんなに映像化に向いている作品もそうそうないと思うのですが。

 

ちなみにこの作品、百合SFアンソロジーに収録の短編がもとになりますが、百合かというとそこが主眼ではないし、そう呼ばない方が良いのかなと。同性愛が許されない社会でレズビアンの二人はこう生きたという、それだけのこと。もしその関係を特別で特殊なことだなど扱おうものなら、それこそダイに凄い顔をされちゃいそうだなと思います。