【小説感想】吸血鬼に天国はない 4 / 周藤蓮

 

吸血鬼に天国はない(4) (電撃文庫)

吸血鬼に天国はない(4) (電撃文庫)

 

恋に落ちた人間と怪物。

二人が選び取った日常、未来、そして幸せの形。

 と帯に書かれているのですが、まさにその通りでそれだけの、極々私的なシーモアとルーミーの話なのです。それが、こんなにややこしく、言い方は悪いですがしち面倒臭い話になるというのが、まさに吸血鬼という怪物のスケール感であると同時に、シーモア・ロードという人間の在り方で、このシリーズの持つ諦念と真摯さを煮詰めたような空気感であり、非常に「らしい」お話だったと感じます。そして、そこがやっぱりこのシリーズの好きなところだと思いました。

突然現れたシーモアの子供を名乗る女の子も、彼女を起点に広がっていく怪異たちとあらゆる願望を叶える力を巡る話も、たとえそれが世界規模のスケールを持っていたとして、決して物語の主題にはならず、全てはルーミーとシーモアの関係をもう一度定義するプロセスだったのだと思います。ある意味拍子抜けするような結末は、ルーミーという怪物が全てを彼の良いようにしてしまう日常に抗ってシーモアの選んだ意地であり、吸血鬼と人間の恋を未来に繋いでいくためのものでした。

『賭博師は祈らない』を読んだ経験からも、この人の小説ならそれを良しとはしないよなとは思ってはいましたが、その落とし所がなるほどそこにあるのかと。極めて私的な二人のお話に、人と怪物であるがゆえにスケール感がズレながら、ロープの上をギリギリで渡っていくようなバランスで折り合いをつけていく。その答えがここだというのが、ダウナーでザラッとしていて、けれど過剰なくらいにロマンチックなこの作品らしくて、とても良かったと思います。

二人の関係性としてはここで終わっても良いくらいに答えが出ていて、けれどもこれからも二人の周りに事件は起き続けるのだろうと思います。あまり万人受けするイメージのわかないシリーズなのですが、私はやっぱ大好きで、もっと二人の物語が読めれば嬉しいなと思います。