【小説感想】安達としまむら 9 / 入間人間

 

安達としまむら9 (電撃文庫)

安達としまむら9 (電撃文庫)

 

 安達としまむら以外に焦点を当てたり、過去の話だったりの短編集。そして今回は日野と永藤の話が良過ぎました。特に日野の家出の話が、ものすごい解像度で切れ味鋭かった。

日野という良家に生まれたお嬢様と、ごく一般的な肉屋の娘。そんな二人の出会いは保育園で、そのまま当たり前に隣にいる関係が続いてきて。家に収まりの悪さを感じる日野が家出を試みた中学時代、結局お目付け役付きの旅行になってしまったそれについてきた永藤。その中で日野と永藤の関係の形を掘り出していくようなお話なのですが、なんだかもうシチュエーション、モノローグ、会話まで冴え渡っていて凄かったです。

彼女たちを連れ出してくれた江目さんがかつて日野の奥様と選んだ生き方。いつか家を継ぐ人と2人で生きていくために、お手伝いさんとして側にあり続けることを選んだ彼女たちの世代、そしていつかの旅の記憶が、少しずつ変わっていく日野と永藤の関係にオーバーラップしながら、けれどそのまま同じではない。日野父の不器用に娘を想う気持ちも含め、大変良いものを読んだという気持ちです。

あと、中学時代のしまむらがまさにしまむらという感じの尖り方でそうそう君はこういう子だった、この他人への無関心さこそと思ったり、安達母と島村母の不思議な関係からのまさかの安達親子クリスマス会も良かったです。

いつも思うのですが、入間人間の文章は、色と匂いと触感までセットで想起されることが多くて、知っているあの日の感覚を引きずり出されるように思います。今回の幼少期の永藤が日野の家に初めて行った時に広い部屋に感じたものとか、子供の頃父の上司のお屋敷に連れて行かれた時の感触が蘇ってくる感じ。そういう感覚に訴えかける文章が書けるからこそ、人と人の間に流れる空気感を描くのが抜群に上手いのだろうなと思いました。