【小説感想】魔法少女育成計画 breakdown 前・後 / 遠藤浅蜊

 

 亡くなった天才にして変人の魔法使いが何らかの研究を行っていた無人島。その島に魔法少女を二人まで連れてくるという奇妙な条件付きで、遺産相続の話し合いに集められた縁者たち。

このシリーズでそう来たら平穏無事に話が進む訳はなく、一人の魔法少女が殺されたことをきっかけに、魔力を吸い取る大地、錯綜する思惑と陰謀、現れた圧倒的暴力を振るう女神の姿の魔法少女と、状況は混迷し、各陣営は追い詰められていきます。

 

読者応募の魔法少女と過去に登場した魔法少女、そして新キャラたちを加えた魔法使い+魔法少女2名の各陣営が、怪しげな研究が行われていた無人島で極限まで追い詰められていくまほいくスピンオフは、Web連載作品だったということで今までのシリーズとはちょっと手触りが違う感じでした。

まほいくは初期の印象が強いので、設定とキャラクターを組み上げてから、唐突に理不尽に壊していく、そのカタストロフに魅力があるシリーズだと思っています。ただ今回は、連載作品ということで全体構成は綿密に作られている感じではなくて、毎回テンションを保ったまま駆け抜けていくという感じ。結果、やっぱり人死にの多い作品ではありますが、壊すのではなく、積み上げていく物語になっていたと思います。

まず、単純に厚い(上下で約1000ページ)ということでそれぞれのキャラクターの描写も多く、話が進んでいくうちに愛着が生まれてきます。キャラクターを描くのが明らかに上手くなっているので、もう滅茶苦茶に死ぬだろうに、ああ死んでほしくないなと思ってしまいますし、強烈な展開で引っ張っていくので、どうなっちゃうんだろう、生き延びてくれるだろうか、あんなの倒せるだろうか、誰が何を考えているのだろうかと次への興味を引っ張り続けてくれる感じ。そして混沌と暴力の嵐が吹き荒れ、魔力を奪う大地に苦しみ各陣営が傷ついていく中で、最終的にフランチェスカという敵に対して力を合わせて立ち向かう流れになるのが熱いです。

この辺りはもう少年漫画かって感じなのですが、各キャラクターの追い詰められた状況での決意も行動も格好良いし、争いごとのプロにはプロなりの、悪党には悪党なりの、魔法使いには魔法使いなりの、野良魔法少女には野良魔法少女なりの、ただの子供にだってただの子供なりの矜持を見せてくれるのがシンプルに大変良かったです。まさか邪道だと思っていたまほいくでこんな王道な話が出てくるとは思わなかったし、それがこんなに面白くなるとは思わなかったので驚きでした。皆に見せ場が用意された分、展開的にも構成的にも盛り盛りで特に後半はあまりスマートではないのですが、テンションと熱さで全てを超えていくような勢いがあります。読んでいる気分的には、鬼滅の最終決戦とかそういう方向に近い。

 

そうやって王道に来た物語の魅力の一端はキャラクターとその関係性で、相変わらず世知辛い魔法の国と魔法少女周りの流れるような描写や、魔法少女のシステム上、返信前は老若男女、人間以外も問わないという部分が生み出す多様性や関係性、それぞれの持つ特異な能力とその活かし方といったところ。

そんなキャラの中ではドリーミィ☆チェルシーが最高でした。自分の信じる魔法少女の在り方を目指してきた34歳ニート魔法少女オタク女が、母親から働けと言われて魔法少女としての仕事に応募してみたという期待値ゼロから始まり、仕事を始めればトラブルは起こすは施設は壊すわで評価マイナスに至ってからの後半ですよ。奪われ傷つけられ操られ、魔法少女ドリーミィ☆チェルシーならどうするか、その信念に従って強大な敵に戦いを挑む。何度やられても一番可愛い、一番魔法少女らしい我流の戦い方を突き詰めて立ち上がり続けるのが格好良くてヤバかったです。チェルシー株はストップ高から天井を突き抜けて、何言ってんだこいつと思っていた「ドリーミー☆チェルシーにお任せよ!」に震えることになるとは思わなかった。あと、その筋のプロであるマーガリートからチェルシーへの評価が異様に高いのがちょっと面白かったです。

他のキャラもなかなかキマっていたり、強かったり弱かったり、ズルかったり真っすぐだったり様々でしたが、名門魔法使い家の少女イオールと何の魔力も持たない少年統太の関係も良かった。いやほんと今回は王道攻めてきたなっていう。だからこそエピローグで出てきた単語においお前それはやめろふざけるなと思いましたが。それからラギ爺さん、魔法使いとしては優秀だけど嫌われている怒ってばかりの堅物クソ真面目爺、有事の際には頼りになるのが素敵。事件を受けての心境の変化の、苦みのある余韻を残す感じ、良かったです。

あとは過去生き延びた組を出してくるのも、思い入れの観点からズルいものがありました。クランテイルとかマナたちとか、どんな酷い状況からどんな想いを背負って生き延びたのか知ってるので、こんなんで死なないでくれって思ってしまう……。亀から変身した魔法少女ことテプセケメイ、謎の独自ルールに従って自由に動いているようで、7753とマナに向ける想いの強さが好きです。あと強いし。

 

そんな感じでとにかく飽きることなく先へ先へと読み進めてしまう面白さのあった上下巻。とても満足感のある読書でした。あとは明らかに話の途中で止まっている本編の続きを早く……。