【小説感想】虚構推理 逆襲と敗北の日々 / 城平京

 

マンガ単行本と小説が同時に発売された「岩永琴子の逆襲と敗北」がメイン。様々なエピソードでずっと示され続けてきた、秩序を司る者、怪異たちの知恵の神としての岩永琴子という存在の在り方。そこに抱えた矛盾に加えられる六花からの一撃は、岩永琴子というこのシリーズの根幹を揺るがすもの。ああ、「名探偵に薔薇を」の城平京だなと感じる、シリーズのターニングポイントになる一冊でした。

 

山中でキリンの亡霊に襲われ崖から落下した男性4人組。絡み合った思惑と計画がたまたま居合わせた六花の存在とキリンの亡霊のせいで酷くこんがらがり、それを亡霊の存在なしで解決に導くために、琴子は真相の推理と虚構の構築を迫られる。そんな虚構推理らしい、でもこれまでとは違う趣向の事件で岩永琴子の岩永琴子たる所以を十分に示してからのこれ。事件そのものを踏み台にして、作品構造を逆手に取った大転換に、役割自体に追い詰められる主人公はまさしく城平作品だなあと。

人間の法の範疇では動かない、真実を明らかにする探偵ではない、目的のためには人倫にはもとることもいとわない、怪異たちと人間の調停者としての知恵の神。だからこそ、どうして一番バランスを狂わすような存在を、一番近くに置き続けているのか。九郎と琴子の間に、どんな未来が描き得るものか。そこは最大の矛盾点として最初から開示され続けていた訳ですが、それをこんな手はずを整えて、致命的な形で突き付けてくるのは流石だと思いました。

そしてそれすらステップにしてしまう、小説だけに収められた九郎と六花の会話がやばい。一見すると九郎が分かりづらくともいかに琴子を大切に扱っているのかを話しているだけですが、ああ、そこまで分かっていて、そう解釈した上のそれなのかという。岩永琴子が背負わされた役割と桜川九郎が化物にされたこと、その二つの上でかろうじて取られているバランスは、何かが崩れた瞬間に成立しなくなることを、逃げ道をつぶすように一つずつ立証していく、救われない、笑えないエピローグであったと思います。

そうなるとこの絶望的な物語構造を、どうやって打ち破っていくのか、あるいは打ち破れないのかがこの先の見所ですが、正直もう何も想像がつかないので、そこは楽しみに待ちたいなと思いました。