【小説感想】Y田A子に世界は難しい / 大澤めぐみ

 

Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)

Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)

 

騒がしくて面白くてちょっと泣けて、読み終えて清々しい気持ちになれる青春AI家族小説。滅茶苦茶良かったです。とても好み。

 

突抜博士という突き抜けすぎた人工知能の元権威が作ったものの理解されず宙ぶらりんになっていた自我を持つAIを、ロリコンの満天橋教授がお嫁さんにするために作った少女型のロボットに入れたのだけどそのために研究費を使い込んだことがばれてクビになり、処分されそうになったところを研究員の秋彦さんが流石に可哀想だと家に連れ帰ったことで和井田家の居候になって女子高生になった和井田瑛子(ロボット)が突き進む賑やかな日常を一人称饒舌体で描く物語。

そんな瑛子が友達を作ろうとベンチに座っていた風香(友達がいない)に距離感のおかしなアプローチを見せる冒頭から、いったん落ち着こうと言いたくなる情報過多な感じですが、そこから一切減速することなくその勢いのままとにかくアッパーでテンション高めに駆け抜けます。とはいえロボットなので変な冷静さがあったり、周りの人たちも普通だったりちょっと普通じゃなかったり、でも描かれるのはぶっ飛んでいるけどどこにでもある日常で、読んでいると瑛子を通して触れる騒がしくも面白い世界に楽しい気持ちになってくるのが良い感じ。

  

女子高生になった瑛子は和井田家に居候しながら、友達を作って、バイトを始めて、部活を始めます。その過程で、ロボットである彼女の視点から、友達だったり、家族だったり、アイデンティティだったり、将来のことだったり、色々なことを考えます。この一つ一つのテーマは彼女のスピード感ある日常の中でそこまで深く掘り下げられはしなくて、けれど確かに彼女の自我の中に確かに何かを残して、彼女を形作っていきます。

ボボボーボ・ボーボボを買うためにバイトをするのも、躯体に負荷をかけるだけのバレエを面白いと思うのも、攫われた友達のために行動するのも、すべて彼女の日常で生まれたこと。そして、彼女がロボットであり、人間とは違って一度壊れたら自然に直りはしないことも、年下(?)の子が成長したり友人が変わっていく中で自分はずっと同じ姿なことも、それを彼女がどう考えたのかも。それは、ああこんなに騒がしく楽しい毎日なのになんて切ないと、そう感じさせられるもの。

そしてその切なさの反転するエピローグ。人間のことを知って、人間のことを考えて、人間ではない自分を意識して、同じ時間を生きることができないと悟った彼女にもたらされる単純な答え。

 

瑛子はロボットで、ロボットだから外側からの視点で風香のことや和井田家のことを見ていて、友人や家族というものを知った。知ったからこそ、彼ら彼女らは自分を当たり前に受け入れてくれるけれど、自分は同じ時間を生きられないと悲しんだ。

でも、少女型のロボットであることが、最高速で突き進んだ騒がしい日常が、そうやってできた友人や家族が、バイト先のおっさんみたいなことを言うペッパーくんだって、全ての要素がばっちりとハマって、ここには女子高生 和井田瑛子の物語が浮かび上がります。ロボットだからだとかそんなことは関係なく、彼女が観測して考察した世界の中に彼女自身は確かにいる。彼女は未知が広がる世界を目一杯に生きてきたし、例え叶うかわからなくても、未来を願ったっていいんだと教えてくれる親友もできた。だから、一緒に歩んでいくことができる。

そうして物語は、周りと違う自分はどうやって世界の中で生きていくのか、何者になれるのだろうかという、ものすごく普遍的なテーマに集約されます。人と出会い、世界を広げて、青春を知ったロボットが、気が付けば彼女自身最高に青春をしていた。そこがとても良かったし、すごく好きだなと思う物語でした。