【小説感想】同志少女よ、敵を撃て / 逢坂冬馬

凄惨な独ソ戦争を舞台に、狙撃兵となった少女セラフィマが、戦場で何を見て、何を感じて、何をしたのかを追いかけていく、アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。

セラフィマを通じて見る戦場の凄まじさ理不尽さ、それと両立してしまう戦闘シーンの高揚感、村を襲われた復讐心から始まった彼女の強烈な感情の揺らぎ、狙撃兵となった隊員たちの間にある関係性、それぞれのキャラクターの魅力。とにかくどの要素も高レベルで隙がなく読んでいてずっと面白い、評判にたがわぬ完成度の一冊だったと思います。

 

印象的だったのは、訓練学校から最初の戦場に放り出されたウラヌス作戦。学校生活の中で少しずつ生まれていた隊員たちの絆も、厳しい訓練を抜けて得ていた自信も、すべてを吹き飛ばす戦場の圧倒的リアル。どこか柔らかいキャラクター小説の印象がしてきたところを張り倒されるような、鮮烈な章でした。

そしてその先もスターリングラードケーニヒスベルクと激戦地を転戦するセラフィマたちが戦場で誰に出会い、何を見たのか。極限状態の中に、様々な考え方があり、生き方があり、誰もが何かを選び続けている世界。戦場はいつだって死と隣り合わせで理不尽で残酷で、ただこの小説、理屈に合わないことは起きないのが怖いところだなと思いました。狂っているのであれば、そういうものだったで逃げられるけれど、それを許さない作りというか。

むしろ、極限状態の中で露わになるのは、その人物の地金の部分で、様々な装飾を取り払ったそれをきちんと積み重ねた上に、現実が立ち上がってくる感じ。ごまかせない、理想では覆えない、そういう場が戦場なのだと思いました。そしてその中を生き抜いた少女狙撃兵だったから、あの結末、そしてこのタイトルに至るのは、必然であったように思います。

それだけでなく、各キャラクターの本心や行動の理由も最後になって明らかになるのですが、驚きよりもそうだよなあと思っていたところにしっかりと行き着くので、尚更まっとうに組み上げられ、組み上げられた結果がこうなるのかという思いがありました。

 

登場人物の中ではシャルロッタが好き。セラフィマとの関係、ヤーナとの関係、そして部隊の中での自分の役割まで含めて、戦場の中であのキャラクターで在り続けたという強さが眩しいです。そしてエピローグも大変に良かった。読者として追いかけたのはセラフィマの人生だけれど、きっと彼女には彼女の戦いがあったのだろうなあと思いを馳せたくなる、素敵な人であったと思います。