【小説感想】86 ―エイティシックス― Ep.10 フラグメンタル・ネオテニー / 安里アサト

 

 シンの86区時代の過去話を中心にした短編集。

死神と呼ばれていた過去を合わせて考えれば当然周りはみんな死んでいく訳で、出てくるキャラ出てくるキャラ86区の戦場に散っていくという。ただ、その中でも彼ら彼女らがシンという存在にどう触れていたか、それが今のシンが形成されるにあたってどういうものを残していったのかが分かる物語でした。ここまで追いかけてきたからこそ、だからシンはあの時ああいうところにこだわって、そういう人間であったのだなと答え合わせになるような感覚が面白かったです。これはシリーズが長く続いてきたからこそのものだなと感じます。

そしてこの短編で何がズルいってファイドですよ。ここまで9巻、なんだか妙に賢いスカベンジャーだとはずっと思っていたけれど、まさかそんな背景を背負っていただなんて思わないじゃないですか。ここでそれを出してくるかと唸るばかりな、満を持しての短編『ファイド』。いやもう本当にそういうの泣くから!! 新展開に入りそうな次の巻から、ファイドを見る目が変わりそうな破壊力のあるお話でした。