プールの底に眠る / 白河三兎

プールの底に眠る (講談社ノベルス)

プールの底に眠る (講談社ノベルス)

13年前の夏の1週間、高校生だった主人公がセミという美しい少女と過ごした日々を留置場から回想する形で綴られる物語。第42回メフィスト賞受賞作です。
誤ってしまった道、失ってしまったもの、それを噛み締めるように、懺悔のように語られる過去は、喪失と後悔の空気を色濃くまとっています。そしてその中心にあるのは、主人公が出会ったセミという美しい少女との関係。自殺をしようとしていた少女と出会い、お互いをイルカとセミと呼び合い、彼女に惹かれていって。口が悪くてどこか達観したように大人びていて、でも年相応に子どもっぽいところも見せるセミは、白く儚いイメージを纏い、どこか幻想的で日常離れした存在のよう。そして主人公もまた、ある過去を抱えて、心を止めてしまったような諦念に包まれていて。
そんな二人の関係は透明で揺らいでいて地に足がついていないようで、淡々と流れていくような文章、全体を覆う喪失の空気と相まって、切なく苦いけれど、綺麗でずっと浸っていたくなるような雰囲気がありました。そしてその雰囲気と、セミというキャラクターがとても魅力的な小説だったと思います。
ストーリー的には主人公の犯した罪とその過去を辿っていくような形になるのですが、最終的にいまいちすっきりしないというか、もやもやが残るような感じがありました。それでも、セミとイルカが過ごしたどこへも続かない1週間を超えてみらいへと続いていく最終章は、全てをあるがままにただ静かに肯定していくようで、この作品のラストとしてとても綺麗だったと思います。