パパのいうことを聞きなさい! / 松智洋

人の優しさが織りなす擬似家族もの。
早くして両親をなくし、姉と二人で生きてきた大学生の主人公。その姉が結婚して、しかもその相手がバツ2の2人の子供連れで、姉と相手の間にも子供が生まれて、シスコンの主人公は嫉妬したりもしていたのですが、姉夫婦の旅行中にその3姉妹の面倒をみることになって、そして、その飛行機が落ちて、姉夫婦は……。突然最愛の姉をなくした主人公と、突然最愛の両親をなくした3姉妹。慌ただしく執り行われた葬儀のあとの、3姉妹の今後を話し合う親族会議、離れるのを嫌がる3人とまとめて世話できるだけの余裕はない現実を前にして、主人公がとった行動は。
という感じに姉夫婦のところの3姉妹を自らの六畳一間のアパートに引き取った大学生の主人公ですが、子育てなんて当然これっぽっちも分からず、中学生小学生3歳と多感な少女に振り回されるばかり。大学の友人の協力もあって、なんとかかんとか毎日を過ごしては行くけれど、当然その生活は少女たちにも、本人にも負担を強いるもので。
大学生の少年が3人の女の子を一人手で育てられるわけもなく、彼女たちの同意があったとはいえ半ば強引に3人を連れ帰った主人公の行動は褒められたものではありません。見通しは呆れるほどに甘く、当たり前のように噴出する問題に振り回されて、みんなに負担をかけて。誰かの保護者であることは一方的な関係ではなく、当然それ相応の責任が生じるものなのに、その責任に対する答えも甲斐性も持ち合わせていない主人公には読んでいてずっとイライラするし、それでもなんとか暮らせていけてしまう物語の都合の良さもなんだかなと思うところがありました。
ただ、そんなもやもやした想いも、第6章の「みんなのためのお遊戯会」を読んで吹き飛んでしまった感じです。姉妹たち3人、そしてその中に主人公がいる暮らし。滅茶苦茶で無謀なその時間が、少しづつ培っていった、家族としての絆。ともすれば面倒事とも言われるものを背負い込んだ主人公に、精一杯の友情で答えてくれるサークルの仲間たち。そして、わがままを貫いて心配をかけてでもたどり着いたその姿を見て、それを支えていくことを決めた大人たち。この先も問題は山積みで、ファンタジーすぎるほどにご都合主義で、それでもここには人の優しさが溢れていました。世間知らずだけど健気で前向きな子どもたちと、厳しくも優しくそれを見守る大人たち。常識や辛い現実を乗り越えていくために必要なのは、決して正論ではなくて、想いと人の繋がりなのだと教えてくれるような、そんな優しく素敵な物語だったと思います。
正直なところ、話筋はご都合主義だし小説というよりテキストっぽい文章も上手いとは思わないのですが、これからもたくさんの壁にぶつかっていくだろうこの子たちが、それでも騒がしく前向きに生きていく姿をもっともっと見守っていたいなと思わせてくれるような小説でした。良かったです。