B.A.D. 1 繭墨は今日もチョコレートを食べる / 綾里けいし

B.A.D. 1 繭墨は今日もチョコレートを食べる (ファミ通文庫)

B.A.D. 1 繭墨は今日もチョコレートを食べる (ファミ通文庫)

ゴシックロリータに身を包み紅い唐傘をさす異能の少女繭墨あざかと、その腹に鬼を孕んだ青年小田桐が狂気めいた事件に関わっていく連作短編形式の怪奇譚。
偏執的なまでに愛するが故に、人の道を踏み外し狂気に走る。そんな人の心の闇が織り成す仄暗い事件を、異能の一族である繭墨家の少女あざかと、ある事件から鬼を孕むに至り、そして彼女に救われた小田桐が解決していく物語。ですが、そこに明るく希望に満ちた解決が訪れることはなく、狂気は狂気のままに闇は闇のままに、繭墨はただ自らの興味に従って事件に関わります。
そんな事件はおぞましくグロテスクで、でも静かに言葉を重ねていくような文章も相まって、どこか幻想的で美しさを感じさせてくれるのがとても良かったと思います。人の死を嘲り、人の不幸を嘲笑う異形の少女が、血の色に彩られた事件現場で、ゴシックロリータの服に身を包み、紅い唐傘の向こうに異界を映す、そんなシーンが脳裏に浮ぶだけで、この作品はもう十分に満足ができるものだと思うのです。
世界観や、キャラクターを確固たるものとして見せる文章や構成が、新人作品離れしてハイレベルにまとまっていたことも印象的。ともすれば安っぽくなりそうなテーマではありますが、落ち着いた筆致で作品の世界観を形作りながら語っていくので安心して読めました。特に、多くの謎を抱えたまま、いくつもの過去がフラッシュバックして読者を幻惑していくような、最終章の構成が良かったです。
この作品で特に魅力を感じたのは、繭墨あざかというキャラクター、そして小田桐とあざかの関係性。人に共感することの無い、人でなしの人に在らざるもの。ゴシックロリータに身を包み、チョコレートしか口にしない傲岸不遜な異能者であるあざかの、超越者としての存在の魅力。
そして、繭墨の力に全てを壊されて、あざかに助けを求めるしかなくなった小田桐。慎ましやかな日常を望む青年は、常識では計り知れない少女に振り回され、それでも己の運命から逃れません。離れられない事情があるにせよ、愛想をつかしそうになりながらも世話を焼き、どこか恐れながらも信頼し、離れそうになったとしても最後には彼女の隣に在りたいとを願ってしまう。異形の存在に惹かれ、繋ぎ止められた主人公は、それぞれの章で描かれる狂気の愛に呑まれた人々の姿にも似て、それでもその歪んだ関係性が美しいと思えるような物語でした。
狂気にまで至る愛憎や身も凍るようなグロテスクなシーンは、それだけを見ればもっと踏み込んで描いて欲しいかなとも思いましたが、作品全体のバランス的には絶妙なところで描かれていた感じ。本当に、とても完成度の高い一冊だったと思います。面白かったです。