【小説感想】86 -エイティシックス- Ep.8 ガンスモーク・オン・ザ・ウォーター / 安里アサト

 

 今回機動打撃群が派遣されるのはレグキード征海船団国群。人類の海への進出をかけて<原生海獣>との闘いを続けてきた船団国家は、レギオンとの戦争に消耗し、海上に出現した電磁加速砲型からの砲撃により、消滅の危機に瀕していて。

対レギオン戦争が人類の圧倒的な劣勢であり、その中でも無茶な作戦を実行するための機動打撃群なのだから当然ではあるのですが、また今回も死闘に次ぐ死闘という一冊。次から次へ迫る危機に、このシリーズは流石に主要人物死なないでしょという気持ちと、いやこれはちょっとあかんのではという気持ちが天秤の上で揺れているみたいな感覚になります。

そんな戦闘の中、あるいはその前に描かれるのはやはりエイティシックスたちの物語で、誇りと共に闘い続けることを在り方とした彼らに、戦後という可能性を突きつけていく話。そして、シンの話の次は残りのメンバーということで、今回フォーカスが当たるのはセオ。誇りに生き、その先に何も残らなかったとしても、最期まで闘い抜く艦隊の姿に、<シリン>の姿に何も残さずに死ぬことを突きつけられた彼が何を見るのかというものでした。本当にエイティシックスに対してはひたすらに厳しくて、けれど優しい物語であるなと改めて思います。

それからこの巻は船団国家の人達が本当にね。1つの征海艦隊を家族とし、その長を長兄とする国家の、最後に残された寄せ集め艦隊の最後の仕事。レギオンに対抗できる国ばかりではないと言われてきても、今まさにすり潰されようとしている国を見せられるのはまた違うものがあります。

ボロボロの街で盛大に行われる伝統のお祭り。機動打撃群を電磁加速砲型へ運ぶための艦隊の出港に集う街の人々。先に出た囮艦隊は練習艦に退役軍人を乗せた決死隊で、本隊からも次々と囮に出た艦が沈んでいく、全ては征海艦隊の誇りのために。それは哀しく辛い闘いであると同時に、気高く尊いものにも見えて、この滅びはロマンでもあるんだよなあと思う闘いでした。この作品で出てきた国で一番好きです。

そんな感じで、あらゆる方面から、このシリーズは感情を大振りのハンマーで何度も殴ってくる作品だなと改めて思わさせられるような一冊でした。次も楽しみですが、ちょっと怖くもあります。