ハローサマー、グッドバイ / マイケル・コーニイ

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

恋、戦争、秘密。少年が一足飛びに大人になる、ひと夏の物語。
地球に良く似ている惑星が舞台で、人間に良く似た異星人を主人公にして描かれる物語。役人の息子ドローヴが、父親の仕事とバカンスを兼ねて訪れたパラークシという港町で、たくさんの人々と出会い、恋をして、おそるべき秘密に触れていきます。
SF的な要素から、世界を二分する国家による戦争、役人と庶民の階級格差、身分違いの恋に、成長の物語にして青春の物語、そして世界を揺るがす大きな秘密の話まで、たくさんの要素をこれでもかと濃縮していて、それなのに読んでいて不自然な所がなく、それぞれの要素が絡んでひとつの物語を作り上げているところは、さすがに傑作と呼ばれるだけの作品。一見何気ない設定から、そこで生きる人の想いまで、一見関係の無いように見える小さな要素までが絡み合って、この作品世界をより強固なものとして作り上げ、その上で語られる物語を魅力的にしているのだから凄いです。
そして、短い夏を勢いよく駆け抜けていったドローヴという少年の物語としても素敵。序盤の何にでも反発する小生意気なガキな一人称が、少しずつ大人びたものに変わっていく様子、そして彼を大人にしたたくさんの経験。村の大人たちと役人たちの争い、そして大人たちの世界の影響を否が応でも受ける子供たちの世界。その中でもやはりブラウンアイズとの恋が、ドローヴにとって大きなものだったのかなと。ただ、確実に成長はしているのですが、ドローヴは正直性格が悪いような気も……。成長して聖人君子になってしまうよりも、この方がよっぽど自然だと思いますが。
そして後半に進むにつれて明かされる数々の謎。どこか引っ掛かりながら、そういうものだと読み進めていた要素が、綺麗に繋がっていく感じ。どんでん返しにも関わらず、スッと納得させられるのが巧いと思います。そしてこの大きな秘密が、世界を二分する戦争を、特異な自然現象を、役人たちの行動の謎を解き明かし、さらにブラウンアイズとドローヴの恋の行方を、そしてパラークシの未来にまで大きく関わってくるのだから凄い仕掛けだなぁと。
個人的に翻訳ものは全般的に文章があまり得意ではないので、最初は読み進めるのに苦労したのですが、後半にさしかかってからは一気に読まされてしまった作品でした。



以下ネタばれあり反転

ロリンがドローヴを助けた幼い日のエピソード。作品の一番初めに語られて、読み進めるにつれて忘れてしまうようなエピソードが、まさか最後の最後で全ての答えとなるとは! 少しずつ寒さに追いつめられていく絶望感を鮮やかにひっくり返すラストは、非常に印象的でした。