月華美刃 1 / 遠藤達哉

月華美刃 第1集 (ジャンプコミックス)

月華美刃 第1集 (ジャンプコミックス)

前作の「TISTA」がどうしようもないくらいに好みで、だからこそもの凄く期待をしていた遠藤達哉最新作ですが、その期待を全く裏切らない面白さでした。めちゃくちゃ面白かった!
月の都から始まる物語は、月の都の統治者である銀后の娘として継承者の立場にあるカグヤを主人公に描かれて、序章から既にクライマックス。暴君によって荒れた国を一代で復興した母フジヤ。カグヤはそんな母からの厳しい指導と側近からの稽古事の強要に嫌気がさして、暴れるわ抜けだすわなワガママ放題の毎日を送っているのですが、そんな折に無理を続けてきたフジヤが病に伏し、さらに分家によるクーデターが起きて、という展開。
姫という立場に生まれ、いずれは国を治める者として強く賢くあることを強要され、自らの一挙手一投足で多くの人が動き、そして傷つく。普通の母娘として幸せに暮らしたいだけなのにと思うカグヤの気持ちはそれ自体は責められるものではなかったとしても、過酷な運命は彼女にそれを許しません。母が彼女の指導を急いていた理由。それを知った時に逃げ続けていたカグヤが見せる決意には、この母にしてこの娘ありというところを見せてもらえたような感じがしました。
そしてこの作品、キャラクターたちが凄く魅力的です。直情バカで世間知らずでワガママ暴走姫様なカグヤですが、母を想う気持ちも、その目指すところもとにかく真っ直ぐ。暴発してはハラハラさせてくれますが、その姿は見ていて気持ちの良いもの。
そして彼女の周りにいる大人たちも、子供たちに対して自分の為すべきことを胸をはってやれているようなカッコいい人たちが多いです。特に母フジヤの全ての重責を背負って闘う姿。己の為すべきことを信じて、弱さは見せず、民に対して、娘に対して、自らの生きる道を貫いてみせる。苛烈な生き方が自分自身の命を縮めるとしても厭わない、その強さと厳しさは、決して真似はできないけれど本当にカッコいいものだと思います。
クーデターの末にカグヤが穢星=地球に逃がされて、その地で翁たちに拾われるという流れは竹取物語をベースにしているのですが、アレンジのきいた世界観の構築もお見事な感じ。月から来る「求魂者」に追われる中で、穢星の庶民の苦しい生活に触れ、また新たな出会いもあり、真っ直ぐだけれど甘ちゃんでバカ娘だったカグヤがどう成長していくのか。この先が本当に楽しみになるような物語の幕開けでした。
そして、一コマで魅せることのできる構図、セリフ、表情の力、アクションシーンの動きといったところも素晴らしかったです。厳しい運命の中で強い気持ちを貫く者たちの物語のもつ躍動感や激しさは、この絵の力があってこそここまで響くものになっているんじゃないかと思います。
そんな感じで、キャラクターも設定もストーリーも絵も魅力的で、とにかく面白かった一冊でした。2巻にも、凄く期待しています。