- 作者: 白鳥士郎,しらび
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2016/01/14
- メディア: 文庫
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あいを内弟子に取って将棋を指して暮らす生活が幸せで、どこか安寧としていたのがいけなかったのか、八一は姉弟子からあいが弱くなっていると告げられる。折しもその時、八一は連盟会長から一人の少女に将棋を教えることを依頼されていて。
強くなるにはライバルが必要、ということであいのライバル、もう一人のあい、夜叉神天衣登場の一冊。この天衣と八一を繋ぐ縁の物語も、相変わらずロリっ子大プッシュなところも、将棋バカ過ぎる八一と銀子の進まない関係も、どれも作品として面白いところではあるのですが、それは枝葉の部分。この作品の幹は、今まさに将棋に打ち込むキャラクターたちの姿、そこに込められた想い、師弟を繋ぐものの強さなのだと思います。
天衣という大きな才能に触れて、彼女を育てたい、そしてあいのライバルになってほしいと考えるようになる八一。高飛車で生意気で口が悪くて、ただ将棋には真摯に向き合う天衣。天衣に師匠をとられるんじゃないかと不安になりながら、その天衣との対局で足りない自分の力と向き合って涙するあい。ここにあるのは将棋に全部をかけた青年と少女たちの、本気に熱い、努力と才能と人情の物語。そしてそれを陳腐にさせないだけの、将棋界の雰囲気や仕組みの描写があるというなら、そんなもの面白くないわけがないでしょうと。
将棋は駒の動かし方くらいしかわからない私で、もちろん一手一手がどんな意味を持ったものかも分からない。それぞれがとっている戦略も作中で解説されている以上のことはわからない。それでも、対局シーンは思わずのめり込んでしまい、端々にぞわっとするような一文がくる。そこに込められた熱でこれは凄いものなのだと感じさせる。本当に素晴らしい作品だと思います。
しかし才能があっても対人戦の経験が不足しているという女子小学生を、付き添いありとはいえ迷わず新世界の賭け将棋に放り込む八一は将棋馬鹿というか、なかなか狂気じみた勝負師としての価値観が垣間見えていたかなと思ったり。
そんなこんなありつつも兄弟弟子になった二人のあいがこれからどう成長していき、それが八一をどう変えていくか。作者が先が一番書きたかったことがテーマになるという三巻、いったいどこまで面白くなってしまうのか、とても楽しみです。