【映画感想】劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト

 

 TVシリーズも関係性と概念を濃縮2倍でそのまま投げつけてくるような作品だったスタァライトですが、劇場版は凄まじかった。TVの時はキャラクターコンテンツということである程度手心があったのだろうと思うくらいに、アクセルを踏みぬいた映像と演出で圧倒され続ける2時間。今回は濃縮5倍還元なしでお届けという感じでした。

 

初回は卒業の物語であるという前情報とロンド・ロンド・ロンドで出てきた舞台少女の死というフレーズを念頭に置きながら、さてどうなるのだろうと思いながら見始めたのです。ところが、冒頭から一気の展開にそれどころではなくなり、まったく速度を緩めない展開に何かやべーものを見てしまったという感想しか出てこなくなるばかり。ただ、そういうものが来ると身構えたうえで2回目を見ると、この映画、滅茶苦茶懇切丁寧に説明してるじゃないかと。

テーマは卒業、別離、覚悟、けじめ、そして未来への物語。モチーフになる電車は次の駅へと止まらず、舞台少女もまた次の舞台へと止まることはできない。オーディションは既に終わっていて、私たちはもう舞台の上。再生産され続ける常在舞台上、そこで過去を引きずれば、それはすなわち舞台少女の死。上掛けを落とされても終わらない舞台を、だから進むしかないと。普通の女の子の幸せを焼き尽くしてでも、舞台の上で感情を生き様を捧げて、その瞬間だけのきらめきを放ち続けることが、彼女たちが進む道には求められているから。トップクラスの歌劇学校の更にトップエリートである彼女たちは、舞台の上に届かなかったたくさんの舞台少女の死体の先に、そうやって進み続けるのだと感じる物語でした。

そしてこの映画、ストーリー的には本当にそれだけです。描かれるのは、このテーマを冠されたそれぞれの舞台。彼女たちの関係性であり、生き様であり、感情であり、その全てが舞台という形を取るのが、映像音楽演出全てを込めた会心のクライマックスのような後半のレヴュー×5連発。観客席すら巻き込みながら即興劇のように瞬間を燃やし尽くすあり方は、「“劇場”でしか味わえない{歌劇]体験」と謳われるのも納得です。

 

それから舞台の観察者の象徴たるキリンの扱いが凄く良かったです。舞台をきらめかせるための野菜燃料になって燃え尽きていく姿、残ったトマト。全てを舞台に晒した彼女たちの一方的な観察者ではなく、ある種共犯的な関係として描かれたのは、私も一人のキリンとして、本当に有り難い限りだと思いました。それだけの覚悟をもって推してるんだよ、見たこのない舞台が見たいんだよ、なら燃え尽きて糧とさせてもらえるなら、それは望外の喜びでしょうと。

 

 

さて、レヴューですが、いやもう凄かったんですが、それぞれに感想を。

ふたかおは、賭博場、クラブ、デコトラというビジュアルイメージに乗せて熟年夫婦の喧嘩のような二人の関係性がぶつかるレヴュー。お世話をしてお世話されての腐れ縁、未来を定めた香子と、その隣に並ぶため今度はわがままを通す双葉。理屈じゃない情のぶつかり合いと、それでも絶対に別れないだろうという信頼、預かりものとして託されたバイクを携えたエンドロールの香子が最高に良かったです。

ひかまひは、華恋の元を去ったひかりに、まひるが舞台に上がることを求めるレヴュー。露崎まひるというキャラクターの持つ、負けた人間だからこそ、怖さを知っているからこそ持てる図太さが最高に輝いていて、まひるやっぱり好きだなあと思いました。最後の口上、まひるらしさが溢れていて痺れた。

じゅんななはまあ凄かった。眩しいと思った星見純那が変わってしまったと否定して、今ここで腹を切れと迫る(足でぐいとやるシーンのフェティッシュさ)のは、再演を繰り返した大場なな的な傲慢で、けれどそこに説得力はある。それを借り物ではない自分の言葉で否定する純那。ここは自分の言葉を使うことに意味があるところで、だけど壊された自分の弓ではなく突きつけられたななの刀を武器にするの、あーってなりました。そしてお互いに背を向けて対称の構図となる別離。そんな○○知らない! も泣いちゃったも対になる演出で最高でした。この二人は冒頭の面談シーンで出した進路とエンドロールの実際に進んだ道が変わっているのも良い。

そして真矢クロがもっと凄いというかなんですかねあれは。こちらはライバルという対の関係。なんにでもなれる空っぽの器、演者としてのトップスタァ天堂真矢から、感情を引き出して見せるクロディーヌ。「あんた今一番可愛いわよ」に対する「私はいつだって可愛い!」はTV版のやりとりも踏まえて最高です。そして共に燃えながら落ちていく炎って、いやもうなんなんですかねこの二人。

そしてクライマックスはかれひか。オーディションでひかりと二人でトップスタァになるという約束を果たして、何もなくなってしまった舞台少女愛城華恋の死。シーンごとに差しはさまれてきた、ここに至るまでの華恋の過去から見えるひかりへの想い。

そこから、止まらない電車にたどり着いてしまったポジションゼロの棺を載せて、全ての思い出を燃料にして焼き尽くし、アタシ再生産される愛城華恋。向き合うのは、華恋に引っ張ってもらった過去を、華恋のファンになってしまいそうな自分を、舞台に立つという恐怖を過去にして、自罰的で自虐的な自分を振り切って、私がスタァだと名乗りを上げる神楽ひかり。そして二人の約束の象徴たる東京タワー(約束タワー)は折れ飛んでポジションゼロに突き刺さり、愛城華恋は次の舞台へと進んでいく。

いやもう、モチーフの使い方が美しすぎて、そのくせ映像と演出はバリバリに狂気じみていて、本当にやべーものを見たなと思うレヴューでした。最後だからと言って長くない(体感)のもいい。このレヴューにはこれが必要にして十分という感じで、素晴らしかったです。