戦略拠点32098楽園 / 長谷敏司

戦略拠点32098 楽園 (角川スニーカー文庫)

戦略拠点32098 楽園 (角川スニーカー文庫)

円環少女でブレイクした長谷敏司のデビュー作。スニーカーの金賞を取ってるのだからこの時点でブレイクしていてもおかしくないのになぁと思って読んだら、作風がイメージ的にスニーカーっぽく無い感じでしかも地味だったので納得しました。
話としては二つの勢力が泥沼の戦争を続ける宙域で、片方の勢力が必死に守り続ける惑星に命からがら降下したもう片方の兵士ヴァロワが、その「楽園」と呼ばれる惑星で何を見て、何を感じ、何を選ぶかといったもの。
前半は「楽園」に降り立ったヴァロワと、楽園で原始的な暮らしを続ける敵方の制御官ガダルバと少女マリアとの暮らしがメイン。この一面の青空と塔の様に立った戦艦、そして一面の草原に覆われた「楽園」のイメージが鮮烈です。マリアの無邪気さ天真爛漫さが素敵。その中で闘うこと、自分が生きること、といった問題を問い直していくヴァロアの姿が描かれます。
後半は「楽園」の種明かしから、ヴァロアとガダルバそれぞれの決断といった感じ。「楽園」の不自然なまでの「楽園」らしさはやっぱりそういうものだからなのであって、戦場も楽園も全ては表裏一体に過ぎないというやるせなさ。その中で迷いながらマリアとの交流を深めて、どうしようもない中から自分の道を選び取る二人の決意と友情が良かったです。ラストにかけての切なさと余韻はなかなかのものでした。
文章は視点がころころ変わるのと、キャラクターの心情が少し追いにくい感じはしましたが、円環少女ほど凝った感じではないのでそこまで読みにくくは無かったです。そして真っ青な表紙イラストが素敵。しかし円環少女のメイゼルを見た上でこの作品マリアの描かれ方を見てると、この作者は本当に少女が好きなんだなと思います。
満足度:A-