"文学少女"と繋がれた愚者 / 野村美月

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

過去と向き合い、現在を生きて、未来への希望を謳う物語。
正直なところから言えば、私はこのシリーズのミステリ仕立ての部分がごちゃっとしているように思える部分とか、キャラクターや文章に持たせてある緩さみたいな作風が余り肌に合わないのですが、そんなことは本当に些細なことだと思わせるだけの力のある物語でした。終盤、第6章からの話は圧巻。
話としては、ざっくりとした言い方をすれば、過去に繋がれた少年の物語。過去の過ちに縛られて、自分を追い詰める芥川の様子と、今回の題材になっている武者小路実篤の『友情』をオーバーラップさせてくるのは相変わらず上手いです。そして、心葉が首を突っ込んだその事件は、いつそか心葉自身の問題として跳ね返ってくる形に。ここが心葉にとってのターニングポイントにもなって、物語は核心に迫っていくようです。それにしても、このエピローグの引きは次への興味をそそります。早く続きが読みたいところ。
全体を通した時に、話の中にしっかりテーマが通っているのがいいなと思いました。過去を悔やみ、未来を恐れ、進めなくなってしまった者たちの再生。未来はどうなるか分からないもので、これから多くの苦しいこともあるのだとしても、今回演劇を行なった仲間達が芥川の周りにも心葉の周りにもいるのだから、きっと大丈夫なのだと信じてあげたい気分です。そして、遠子先輩の言葉は常に、事実を述べるための推理ではなく、フィクショナルな想像であるのですが、それでもその想像には人を動かすだけの力があるというのが、文学少女らしくて良いなと思いました。この疑いや衒いのない真っ直ぐさは素敵です。
あと、恋愛的な方面では琴吹さんの不器用すぎる感情表現が可愛らしいです。よくよく考えると、心葉って意外とモテているような。
満足度：A