- 作者: 瀬那和章,u
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2008/09/10
- メディア: 文庫
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前の巻で異界使いとなった唯人。非日常の世界に足を踏み入れた先で、異界というものに圧倒され、正しくあることに縛られて、焦りばかりを膨らましていく前半の様子は読んでいて痛々しくもあり、イラっとくるものもありな感じ。さすがに、周りに当たり散らしてやり込められて凹んだりを繰り返しているのはちょっと読んでいて辛いものがあります。主人公ならもっとしっかりして欲しいなと思う気持ちの反面、こんなものに触れたら普通はこうなるという等身大な感じも。
そんな中で探偵事務所の面々が巻き込まれる二つの事件。唯人とレムが調べる密室エレベーターと秋雨とノインの調べる異界使い殺し。その二つの事件が交錯する先に浮かび上がる黒幕の姿と、その歪んだ願望が露わになるクライマックスは気持ち悪さがあって良かったです。歩夢という少年の描いた世界のかたちと、同じ経験をしたはずの蘭不の過去が比較するように描かれる辺りはなかなか。
ただ、上手く組み立てられているという感じで良くできてはいるけれど、良くできている以上のものを感じなかったのが少し残念。あと、どこか平坦で説明的になっているように感じる部分が、特に動きの少ない前半に多かったような気もします。全体的に設計図が見えるような感じなので、もうちょっと突き抜けるか、より洗練されてくるとさらに面白くなりそうです。そういう意味で少しもったいなさを感じたりも。
キャラクター的にはレムと卓也の関係が良かったです。普通ではない子供であるレムの、普通に子供らしい部分が見えたのがなんとなく微笑ましい感じ。異界に関るもの、異界に関ってしまったものとして、この2人はもう日常とは明確に一線を隔してしまったのでしょうけど、願わくば幸せな未来を掴んで欲しいなと思いました。