空色パンデミック Short Stories / 本田誠

空色パンデミック Short Stories (ファミ通文庫)

空色パンデミック Short Stories (ファミ通文庫)

空色パンデミック初の短篇集は、結衣の空想病発作に周りと主に景が巻き込まれるドタバタ劇が3編とメアリーに景が振り回される1編。
本編はどこまでが現実だか分からない、いつ底が抜けても不思議ではないスリリングさがあるこのシリーズですが、短編はあくまでも結衣の自己完結型の発作を周りのキャストが対処をして、そこに景が巻き込まれるような話なので、そういう面での心配はありません。ただ、安心して読めば読むほどに、この空想病の発作というものの痛々しさが胸に突き刺さるものになっていました。
3つの短編は、それぞれ作中で何かの作品に影響を受けた結衣がそのヒロインを演じ始めるのですが、その作中作が明らかに実在の作品、「耳をすませば」「エヴァンゲリオン」「メタルギアソリッド」を元ネタにしたもの。私も知っている作品であることが、また一段と事態を想像しやすく痛いものにしています。私があらすじレベルでしか知らない「耳を〜」「メタル〜」はまだ大丈夫だったのですが、ちゃんと見ている「エヴァ」の場合、どこの何のシーンを結衣がやろうとしているのか分かってしまうだけに思わずひきつり笑い。さらに、本人の願望でストーリーをねじ曲げていたりするからもう!
例えば、ある作品の主人公を自分にして、しかもストーリーを改変しながらノートに書いた小説、なんてものがあるとすれば誰にとっても黒歴史だと思うのですが、それをたくさんの人を巻き込みながら演じきってしまうというこの恐怖。絶妙に拙く都合の良い展開や設定がまたうわあああと思うような感じで、ただそこが面白い一冊でもありました。
とはいえ、キャストの青井も、首を突っ込んでくる森崎も、巻き込まれて文句を言っている景も、結衣の発作に対応することがどことなく楽しそうで、一種のお祭りイベント的な空気があってこれはこれで幸せそうな感じ。というか、常に主人公に景を指名してあまつさえキスまでする好意ダダ漏れな結衣と、どこか嫉妬の色が見え隠れする青井に挟まれて景は充分事態を楽しんでいるんじゃないかという気も……。そんなこんなで痛々しくも後ろ向きではない雰囲気が良かったと思います。
ラストのメアリーの話は、メアリーの景への性格の悪い復讐劇がドタバタと共に描かれていて面白いのと同時に、空想病が人格に与える影響、ならばどこまでが自分なのかというテーマの垣間見える作品。こういうテーマがやっぱりこのシリーズらしいと思った一編でした。恐らく新展開になるであろう、4巻も楽しみです。