僕と彼女のゲーム戦争 / 師走トオル

僕と彼女のゲーム戦争 (電撃文庫)

僕と彼女のゲーム戦争 (電撃文庫)

ゲーム業界に対して政府の後押しがある世界の高校のゲーム部を舞台にした、青春ゲーム小説の導入的な1巻でした。
文化振興のためゲーム業界へのバックアップと理解が厚い世界という舞台。そしてそんな背景のもと子供たちはゲームに夢中な中で読書ばかりしてきた主人公の男の子岸峯は、突然超がつくほどのお嬢様学校への転校申し出をうけます。ゲームを巡る環境も、共学化した女子高の学年に数名だけの男子になるみたいな男の子の夢設定が矢継ぎ早に繰り出させる序盤はちょっと辛いものもあったのですが、そこに至る理由付けや実のところ数名男子が放り込まれてもきついだけという現実も描かれたりして、そこはギリギリでバランスが取れているような感じ。
そしてそこからは、ゲームに青春をかける少年少女たちの日々、のはじまりの物語。声優と結婚したいと公言する顧問教師瀬名に無理やり拉致されて、美人で生徒会長で隠れゲーマーな天道が部長をしている現代遊戯部にやってきた岸峯が、初めてゲームに触れてその魅力を知ったり、仲間たちとの交流を通じて少し変わっていくような感じ。今まで一人本ばかり読んできた岸峯だけに、ゲームの面白さや仲間がいることへの新鮮な感情が良い感じに描かれていました。なにより、この部活がなんとなく楽しそうだなと思わせてくれるのが素敵だと思います。
嫌味なく個性の強いキャラクターに、岸峯がゲームにはまっていく丁寧な描写、そしてその峯岸の物語の中に没入してしまうという設定が綺麗にまとまっていて、非常にスラスラと読めます。王道な青春物語に、ゲームというこの作品独自のテーマを据えて、実在のゲームやサイトで話題性を持たせて、みたいなソツの無さを感じる一冊。ただ、上手くまとまりすぎているのか、私がそこまでゲーマーではないからかなのか、少し物足りなさが残るというか、サラッと読めてそれで終わってしまうような感じもありました。その辺りは、冒頭でも示唆されている通りキャラクターが増えて、本格的なゲーム大会への参加が始まり盛り上がってくるだろう次以降に期待すべきところなのかも知れません。
そんな感じで、読んでいて面白かったのですが、個人的にはちょっと楽しみきれないところもある一冊でした。ただ、すごく良くできているとは感じるので、ゲームが好きな人、特に小説内で出てくる「アンチャーテッド」「スペランカー」「Gears of War」といった作品が好きな人はとても面白く読めるのではないかと思います。