放課後探偵団 書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー

東京創元社の新鋭作家5人(相沢沙呼市井豊・鵜林伸也・梓崎優似鳥鶏)による短編学園ミステリアンソロジー。学園ものということでどの作家も日常の謎を扱ったミステリになっていて、それでいてそれぞれの個性も分かる感じなのが、私のようなミステリに明るくない人間の入門用として良かったなと思います。ただ、作者のシリーズ作品の一編になっているタイプの短編は、キャラクターの立ち位置や性格が把握できないままに事件に入っていってしまうので、ちょっと読んでいて辛いところも。せめてキャラクター紹介が付いていてくれればと思います。
作品の中では梓崎優「スプリング・ハズ・カム」が、ちょっと飛び抜けて素晴らしかったです。久しぶりの高校同窓会で、かつての放送部の仲間3人と再開する主人公。そして卒業式で起きた『燃え北』放送事件の真相を、今あらためて解き明かそうとするお話。同窓会らしい今の楽しさと、過去、青春時代への郷愁みたいなものが文章から溢れていて、読んでいるとノスタルジーを刺激されます。特に過去を振り返って描かれた部分の狭い放送室でいきいき動いている彼らの様子からは、放送室独特な懐かしい匂いまで感じられるようで。この辺りの感覚の描き方は抜群だと思います。
それから物語は事件の真相と同時にある事実にたどり着いて、すっかり驚かされて。そしてこのラスト。センチメンタルが過ぎると言えなくもないのですが、それでももう、これは綺麗で、切なくて、完璧だったと思います。大変素晴らしかったです。これは「叫びと祈り」も早く読まなくては、そう思う一編でした。