シン・ゴジラ

ヱヴァQで「はああああああ!?」となり、ゴジラ撮ってる暇があったらシンエヴァ撮ってよと思い、庵野監督への何もかもの期待値がゼロに近い中、見なくてもいいかなあと思っていたら観に行った人がべらぼうに褒めるので気になり、そして急いで映画館へ向かうという、まさにテンプレのような行動をとった私なのですが、いや、本当に映画館に行って良かった。
見終わって「面白かったー!」じゃなくて「やべえぞ……なんだこれ……すげえぞ………傑作か………」と語彙力を失ってしまうようなやつ。ゴジラさんがハリウッド再デビューで世界的大スターになる中で、どうして今、日本で、ゴジラを作らなければならなかったかへのど真ん中ストレートの回答。なんかもう、こう、凄いので、とりあえず皆さん劇場に急ぐと良いと思います。



以下ネタバレありで。



いやもうなんですかねこれ。「ニッポンvsゴジラ」はまさにそのものを表したキャッチコピーで、ゴジラという未曾有の災害に日本という国家機構が立ち向かうディザスタームービー。日本版インディペンデンス・デイというか、神の名を冠した全く理解できないゴジラという巨大すぎる存在が、ただ歩いているだけで首都圏を蹂躙する中で、日本という国が日本という国のやり方で立ち向かうというお話。完全に未知の災害に対抗するドキュメンタリーというか、プロジェクトXかというような作りになっています。
海底火山の噴火かと思われた謎の事故発生から巨大生物が出現しても、序盤は官邸での会議、会議&会議。数えきれないほどの人たちが出てきて何を決めるにもまず会議、結論ありきでもやることに意味がある会議、会議が終わることでさらに生まれる複数の会議。誰にも決断できない中で、首相が一歩引きながらこれまで無かった事態を判断する後手後手の危機管理。
意思決定の遅さとか官僚制度の弊害とか、普段散々叩かれがちな日本らしさがもう全開なのですけど、最初から最後までこのスタイルで闘いぬく映画なのが凄かった。主人公だって変人揃いの巨災対だってスタンドプレイのスーパーマンではない。降り注ぎ続ける無理難題に、刻一刻と変わる状況に、常に報連相と決済回しとコネと人脈で動きながら、頭を切っても次の頭が生えてきて動き続けるアメーバみたいな組織体。それが、劇中で言われていたスクラップ&ビルドでここまで生き抜いてきた日本という国のはずなんだと叫んでいるような。
訳のわからない災害としてのゴジラも、それが撒き散らす放射線も、明らかに東日本大震災があったから今生まれたものだと思います。それに対してこの日本という国は、このスタイルでこれだけできて、何度だって乗り越えていけるんだろと。やれるんだろ! できるんだろ! と言われているような。それは、決して楽観的な見方でも日本讃歌でもなくて、こんなもんじゃないだろと横っ面を叩かれているようなもので、だからキャッチコピーは「現実対虚構」でもあるのかと思いました。
そして普段からまさにそういう日本式の社会で仕事をしている身としては、端々から感じる既視感に笑っちゃいそうになりつつ、中盤でゴジラが熱線を吐いた時にはこれはもうだめだと頭を抱え、終盤で凝固剤の投与%が上がって行く時にはあと少しあと少しだと祈るような気持ちになり、2時間の映画を観終えてまるで作中の人物たちと一緒に1ヶ月近く闘ってきたような気持ちになりました。で、明日から頑張んなきゃと、毎日ロクでも無いけど、こんなに買いかぶられちゃったら負けてられないなと思っちゃうような、そういう熱量がある映画でした。というか、そう思わされた時点でもう完全に呑まれてるなあと。


あとこの映画、これだけ人が出てくるけれど、とにかく悪人や無能な人間が出てきません。できること、できないことはあれど、それぞれがそれぞれの持場で、それぞれにできる最大限のことをする。それが凄く良かったです。
それから、ゴジラvs日本という枠組みから距離のある物語は、個人や家族のことまで含めて描くものから切り捨てられている割り切り方もすごいことするなあと。テンポの速さと詰め込まれる情報の多さでひたすら畳み掛けつつ、その中身が常に一方向を向いているというのが、見ていてどんどんテンションが上がっていく一因だったのかなと思います。


他にも自衛隊に米軍の攻撃、最後の最後でまさかの電車&重機大活躍、出てくる俳優出てくる俳優皆のカッコよさ、そしてラストで東京の真ん中に残るゴジラとは何者であったのか。色々と見どころはあったのですが、とにかく勢いと熱量に圧倒される映画だったなあと。制作陣が完全に命削ってぶつけてきてるぞこれ、という。とにかく今は、何かとんでもないものを見た気分でいっぱいです。