りゅうおうのおしごと! 6 / 白鳥士郎

 

 前巻で八一の物語が一段落し、さらにアニメ化決定ということもあり、なんとなく箸休め的な一冊になるのかなと思っていたところがあって、しゅうまい先生がのうりん白鳥士郎だ……と思うしかない言動を見せたり、いつもの激しいロリ推しがあったりして仕方がないなあと思っていたのですが、そんな煙幕に隠されていた姉弟子の物語が浮き上がってくると、ちょっと、これは、あまりにもエグい…...。

このシリーズ、勝負の世界の凄さも残酷さも熱さも書けるものは余すところなく、持てる全てを使って、たとえ不格好になっても形にするのだという作者の執念が迸っている気がしていて、それこそが最大の魅力だと思っているのですが、それが姉弟子にモロに牙を向いたという形。女流のトップに立ちながらも、自分は将棋星人にはなれないと八一を始めとしたトップとの差を感じていた彼女が、それでも女流の枠にとどまらず、魑魅魍魎の世界を目指すというのが、一体どういうことなのか。

空銀子というキャラは、ラブコメ的に不憫な幼馴染のテンプレで、突然現れたあいにきつく当たったり、鈍感すぎる八一にキレたりする役回りだと思っていたのですが、そうじゃないんだなと。恋愛にフォーカスしたらそう見えるのですが、彼女にとって、恋愛と将棋は不可分で、だから八一への想いはいつも将棋と一体のものとしてそこにある。恋愛だけをどうにかできると思えなかった彼女が、将棋という糸で結ぼうとした絆が、今圧倒的な才能の差という力で引きちぎられようとしている。

しゅうまい先生に言われたことで八一をホテルに連れていった行動も、小学生のあいをあれだけ本気で相手にしていたことも、そこに将棋が関わっている以上彼女にとっての必然。そして彼女は己の才能を疑いながらでも、三段という女流初のステージに挑むしかなかった、そこに八一がいるから。

それで負けるのもまた地獄だったとは思うのです。ここまで来てしまった彼女がやり直せたかはわからない。それでも、まさか勝つことで更なる地獄が見えるとは。

試合に勝って、勝負に負けた。相手の方が力があったからこそ、自棄になって打った一手が逆転に繋がった、けれどそれは運でしかない。そして歩みを進める三段リーグには、もうそういうレベルの相手しかいない。勝って心が折れる、それもここまで徹底的に、立ち上がれないくらいに折られるというのは、ちょっと言葉を失うものがありました。

彼女にとっては八一との関係と将棋しか無いから、ここから先は進んでも戻っても地獄。当然救えるのは八一しかいないのでしょうが、彼は将棋の国の価値観で生きる人だし、たぶん救われた時彼女は好きだったはずの将棋を失うのだろうなと思うと、本当にもう詰んでるんじゃないかと。そしてそれが埋めがたい才能の差からくるなら、あまりにも残酷だなと。

前巻である5巻はひとつの到達点だと思っていたのですが、銀子のことをここまでを描くのであれば、この先あいも天衣もこの世界でただ順調に進んでいけるとも思えず、この先いったい何を、どこまで描くのだろうと、不安と楽しみを同時に感じる一冊でした。やはりこのシリーズ、凄いと思います。