【小説感想】りゅうおうのおしごと! 13 / 白鳥士郎

 

りゅうおうのおしごと!13 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと!13 (GA文庫)

 

 親の都合で海外に旅立つことになった澪をJS研の皆が見送るお別れの話の合間に、合宿や銀子の誕生会、クイズ大会と言ったこれまでのエピソード短編を挟んだ形の一冊。ドラマCDの内容を基にした合間のエピソードは大変にくだらなく箸休め的な色合いですが、澪とあい、澪と天衣、澪と綾乃の関係を描いていくラストはもう流石という感じ。このシリーズは将棋を通じて棋士たちの生き様を描く物語だと思っているのですが、小学生だからってそこに手加減はなく、なおかつ小学生らしさも加えた鮮烈なものでした。

JS研の元気印であり賑やかしの印象も在る澪が、圧倒的な才能で自分をあっという間に超えていったあいと、そんなふうにして一番近くの友達であり続けた理由、そこにはどんな想いがあったのか。全体から見ればサブキャラクターの一人に過ぎない子にも物語はあり、そこには感情と熱があるというのは、やっぱりこのシリーズの大きな魅力だと思います。

そして、JS研はただの仲良しグループではなくて、将棋を指す者たちの、小さな勝負師の集まりなんだなということを突きつけられる話でもありました。だからこそ生まれた感情、だからこそあった関係性、だからこそ三者三様の苦味すらある別れ。届かない才能にこっちを見てと強烈な努力で手を伸ばし、その心に消えない爪痕を残して、いつかの約束と共に去っていった少女。そうして火がついて、覚悟が生まれ、彼女たちはまたきっと強くなる。それは普通の子供たちの関係ではないかもしれないけれど、この先遥かな勝負の道を行く小さな勝負師たちの、かけがえのない時間であったのだと思います。本当に、良い仲間を持ったのだなと思いました。

冷めた見方をすれば、精神的に脆いあいが八一が銀子を選んだという現実を前にして覚悟を決めるためのステップになるエピソードなんだろうと思うところもあるのですが、子供たちのこの時間、この瞬間の熱さには、そんなものはねじ伏せるような強さがありました。いや本当に毎度凄いなと思います。

とにもかくにも、かくして、雛鳥は大空へ羽ばたいた。最終章、楽しみです。

 

さて、今巻の天衣ちゃんですが、澪に対する先を行く者としての背中の見せ方、道の示し方がマジカッコよくて最高でした。何その人生の酸いも甘いも知っている者みたいな矜持と覚悟。なるほど彼女はそういう道を選ぶのだなという納得感もあり、あなた10歳でそんなに透徹した考えに至らなくても良いのよという気持ちにもなる、天衣お嬢様の御姿でありました。最終章でも活躍の場をください。

あとは、桂香さんはこのじれったくなかなかくっつかないヘタレと鈍感の二人によくまあ付き合い続けたよなあと、そんな事を思ったりだとか。