【小説感想】吸血鬼に天国はない 2 / 周藤蓮
ドラマチックでロマンチックな話は前の巻で終わっているのだから、自分に課したルールと諦念の中で生きていた男と人間の理の外にいた吸血鬼の女は、じゃあ実際この先どうするのよと、そういう話になる訳で。ならば、前シリーズで物語に対してああいう真摯さ、ある意味での潔癖さを見せた作者が、人を喰らう吸血鬼と人間の2人に仮初の安寧を許すわけがないよなあと。
運び屋としての己の定義を捨てたシーモアと元より定義の外にあったルーミーが、人の社会の中に生身で放り出され、それでも生きていくならどうなるのか。物語の大枠は「賭博師は祈らない」によく似ていて、けれど曲りなりにもヒーローとヒロインだったラザルスとリーラに比べこの2人はずっと難しくて、その2人が悩んだり追い詰められたりするのが話の中心なのだから、これがなかなか難儀です。賭博勝負のようにわかりやすい見せ場が用意されるわけでもないですし。
ただ、そういう分かりやすさを投げ捨てて、綺麗にまとめるではなく、粗くても踏み込んだ感じが私は好きです。分かりあえなさと閉塞感と消えない暴力の気配の中で、触れたところだけが温度を持っているような2人のあり方も、関係も、本当にどうしようもなくて、そのくせに潔癖で、青くて暗い中に鮮やかさがある感じがとても好み。
今回の話は世界唯一の吸血鬼が前巻の出会いを通じて人間というものに何を見たのか、そして彼女自身どうありたいと思ったのかを描くものだと思います。彼女が恋して憧れた人の純粋性と、人を糧にしないと生きられない吸血鬼であるということの矛盾。それは、ルーミーが人とどう対するかだけの問題であって、転がり込んできたバーズアイ姉妹も、幻想に全てを費やしてきた吸血鬼狩りも、死神と呼ばれた殺人者さえも、言ってしまえばシーモアだって人間のうちの一人でしか無い。
ルーミーを生かすために彼女の罪を許して縛ったと考えていたシーモアとはそこがずっと噛み合わず、けれど一緒にいることでお互いに影響は与えてはいる。そんな不安定な状態の果てに、彼女には飢えという限界が来ます。そんな望み、最初から成り立つわけがなかったとばかりに。
生まれて間もない吸血鬼が「人間の純粋性」なんて概念に恋をして、概念でしかない吸血鬼を追い続けたある意味純粋な一族の末裔と対峙する。運命を分けたのはそこに殉じて死ねるのか、それでも生きたかったのか。シーモアがルーミーに行った提案は、純粋に生きられない人間が、それでも生きていくためのちょっとした魔法で、2人の関係に持ち込まれた少しのズルみたいなものかなと思います。ひたすら真面目に考え抜いた末に、普通の恋物語にこんな捻れたところから着地するのが、この作品らしくてとても良いなと思いました。
とはいえ、それはあくまで抜け道であって、それを幼さからの脱却だと肯定できるかというと、この作品はそれをきっと許してはくれないのだろうなとも思います。考えるほど吸血鬼と人間は一緒に生きてはいけないとしか思えない中で、2人の物語にいったいどういう折り合いがつけられるものなのか。不安もありますが、楽しみに待っていたいと思いました。