【小説感想】ゲームの王国 上・下 / 小川哲

 

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

 
ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

 

 読み終わって正直どう解釈すればいいのか分からないところはたくさんあるのですが、いやしかしこれはなんだ凄い小説だったなと。圧倒されるような熱量と密度。様々な要素が溶け合った混沌から生まれた奥行きというか濃度というか、なんだか凄いものを読んだという感触の残る物語でした。

舞台はカンボジア。まずカンボジアという国のこともポル・ポトの時代も不勉強にも知らなかったのですが、上巻で描かれる革命前夜の空気感漂う秘密警察の時代から、クメール・ルージュによる革命、そして原始共産主義という理想のみで突き進んだそれが導いた崩壊まで、帯コメントにもある通り見てきたかのように描かれていて凄いです。

革命の起きる都市部、呪術的な暮らしの中にある農村、様々な登場人物たち、暴力、虐殺、どこまでも降りかかる不条理の嵐。その時代の中にあった人々の記憶を饒舌に滑らかに語っていくので、まさに自分がその体験をしてきたかのような気持ちにさせられます(カンボジアのことなんて何も知らなかったのに)。勢い余って、古来から歴史を語り継いできた人々っていうのはこういうふうに話をしてきたんだなと思ったりするのですが、でもこれフィクションで言ってみれば法螺話のありもしない歴史な訳で、それをこんなふうに語ってしまうのが小説家なのだなと。

下巻に入るとうって変わって近未来。荒れ狂う時代を生き抜いた、一度だけゲームをした記憶で繋がれたソリヤとムイタックの2人。ソリヤはこの国というゲームはルール自体が誤っていると考え政治家を目指すも、正しいことをするために積み重なる正しくないことに直面し、ムイタックはその道は間違いだとしてソリヤを止めんと脳波を用いたゲームの開発に没頭します。

世代は変わり、様々な人たちが関わりあい、時代はうねって、2人は駆け抜けた。そのゲームになんの意味があったのか、この物語は何を伝えたいものなのか、私には分からないことも多かったのですが、あっけない幕切れは、人生は往々にしてそういうものであるのかなとも。何かを語るために物語があるというよりも、そういう時代があり、そういう場所があり、そこに生きた人たちがいて、その記憶が積み上がって今ここに物語があるのだと、そんなふうに感じた一冊でした。