魔法少女育成計画 limited 前・後 / 遠藤浅蜊

ジェットコースターって登っている最中はもう落ちるだろうと思っても意外と頂上まで辿り着かなくて、「あれ、これはもしや落ちない……?」とか思った瞬間落ちたりするじゃないですか。まさにそれ。
この作品のパターンは基本的に魔法少女たちのバトルロイヤル(死体もあるよ!)で、それを背景事情やルールを変えたり、登場するキャラクターを変えたりしながら続けている形になるので、この作品もまあそうなのだろうとは思う訳です。そうすると意外なことに全員無事なまま折り返す前編。あれ、これはもしかしてと思ってしまう自分。始まる後編。「ですよねえええええ」と言いながら死んだ魚の眼で落ちていく自分、みたいな。うん、知ってた。
という訳で今回も清々しいほどに落ちていく、爽快感すら生ぬるいみたいな積木崩し。そのキャラクターを動かしてきた事情が分かって、そういう話であれば生き残って○○に決着を……あ、死んだ。なるほど、じゃあこいつがラスボスに……あ、死んだ。という感じで、伊達に登場数が多くないんだと言わんばかりのキャラクターの使い捨ても使い捨てな勢いは、もったいなさを感じなくもないのですが、ただこの大崩壊こそがこのシリーズの醍醐味ではあります。一回崩壊スイッチ入れたら行き着くまで止まらないよ!
そして今回は、魔法の国という官僚機構の中で平社員としてこき使われているだいぶ擦り切れてきた社会人魔法少女7753が、上司の命令で出張に出たらとんでもないケースに巻き込まれちゃった、という話でもあり。この滅茶苦茶社会人している世知辛さに、魔法少女の暴力と血生臭さだけがプラスされた救われ無さはいったいどうすれば。そのくせ魔法少女になった子たちは、魔法少女の正義の味方とか夢と希望みたいなイメージから逃れられていないから輪をかけて悲惨。そして言ってみればこの話、下っ端も犯罪者も無辜の市民すら巻き込んだ一大政争劇でもあるわけで、まあ乾いた笑いしか出てきません。タクトを振るっていた人の正体も、ねえ。さらに言えば一つの街を巻き込んだ被害規模も過去最大レベルですし……。
シリーズを貫く物語もちょっとずつ見え隠れしてきているこの作品ですが、これ、このままいくとここまでで生き残った=大概に何かがぶっ壊れている魔法少女たちによる、蟲毒のようなバトルロイヤルがラストに待ち受けているのでしょうか。それはそれで、ちょっとワクワクしたりも。