魔法少女育成計画 restart(前) / 遠藤浅蜊

魔法少女育成計画 restart (前) (このライトノベルがすごい! 文庫)

魔法少女育成計画 restart (前) (このライトノベルがすごい! 文庫)

まさかの続編、しかもまさかの上下巻構成ということで、いったい何を書くのだろうと思っていたら予想以上にまっとうに続編だったので驚きました。そしてこれが非常に面白かったです。
魔法少女」たちを唐突に巻き込んで始まるのは、MMORPGめいたゲーム世界に取り込まれるという最近流行りなパターンのお話。その世界のクリアに対して報酬があって、モンスターを倒してマジカルキャンディを貯めつつ、アイテムを買い揃え新しいエリアを開いてクリアを目指すという定番なRPGに16人の魔法少女たちが参加させられます。まるで現実世界、けれど現実世界には全く干渉しないという説明を受けて始まったはずのそれが、実はとんでもないデス・ゲームであることが分かって、という展開。
この世界の中であまりにもあっけなく死んでいく魔法少女。パーティーを組んでの行動と広がっていく疑心暗鬼。起こるはずのない事が起きて、裏切り者への疑いは消せず、けれどゲームを抜けることはできなくて、クリアを目指すしかない。複数の魔法少女の視点を切り替えながら描かれていく物語は、けれど時系列的に大事な部分が欠け落ちているようにも思えて、何かが仕掛けられているような予感に満ちています。今はまだ殺しあうようなことはない彼女たちが死んでいったのは、「不幸な」事故やありえないはずのできごとで、ゲームマスター生殺与奪の権利を握って絶対の安全圏にいる以上、その不条理に翻弄されながらもゲーム内の最善手を取り続けるしかない。そしてこのゲームマスター側の物語がまたひどい話で。
仕掛けられたゲームの理由は「魔法の国」に対してのあまりに自分勝手な理由であって、今回は魔法少女達に不条理を突きつける役目のファムがそれを止めようとする立場にいる。じゃあそのゲームを主催しているマスターの稚気といい加減さは、生死をかけたゲームの魔法少女達にそのまま不条理として振りかかる。けれどそのマスターすら、「あの魔法少女」を巡る物語の中ではひとつの駒にすぎない様な気配すら漂って、必死に生き延びようとしているはずの魔法少女たちの闘いの意味はどこまでも薄くなっていくこの意地の悪さ。
悪趣味さまで込みで前作より洗練されたような感じで、気分の悪さが気持ちいい一冊になっていました。提示されたルールとある意味フェアであるはずのマスターという要素だけでは測れない、明らかな作為が働いているゲームに仕組まれているもの、そして当事者である彼女たちがその世界でどうなっていくのか、そしてその世界を動かす人たちの物語はどうなっていくのか。ハッピーエンドなんてありえなくて、そこに意味すら認めてもらえないような結末がきっと待っていると分かっていても、むしろそういう結末に至ることを楽しみに来月刊行の後編も読みたくなる作品です。衒いなくこれを好きだと言うような人はロクなやつでは無いと思いますが、私はこの小説、好きです。