メシアの処方箋 / 機本伸司

メシアの処方箋 (ハルキ文庫)

メシアの処方箋 (ハルキ文庫)

ヒマラヤで発見された謎の方舟。そこから発掘された木簡に秘められた謎の解明から始まる物語は、「デザイナー」の残した遺伝子情報を読み解いて「救世主」を作りだすという途方もない話に展開していきます。
とはいっても、主人公が特別な人ではないため置いてけぼり感はあまりしませんし、やっていることも遺伝子データを延々と解読したりと割と地味めな感じ。生命倫理の問題を孕み、人の生きる意味すら問うような抽象的でスケールの大きいことをやっているようで、実際に起きている事件は、スケールが大きいには大きいのですがむしろ地に足がついた感じだというギャップが面白いです。
ヒマラヤの山中から始まった話は、意外な方向にどんどんと展開していって惹き込まれるし飽きさせないのですが、主人公の語りが淡々としているために起きていることの割に盛り上がらなかったという印象も。私自身が生命科学の知識がないこともあって、特に前半の暗号解読の部分は少し冗長な感じも。実際にやっていることはとんでもないことのはずなのですが。
キャラクターの描写ももう少し深掘りしてあると、物語に入りやすいように感じます。その中では、色々と難しく考えがちなキャラクターたちの中で、カビリアが見せるシンプルな母の強さが印象的でした。
結末はこれはこれで一つの答えかとも思いますが、いま一つ腑に落ちなかったかなという印象。この辺りは個人的な感じ方の問題なのかもしれません。