電波女と青春男 2巻 / 入間人間

電波女と青春男〈2〉 (電撃文庫)

電波女と青春男〈2〉 (電撃文庫)

世の中には、たとえそれがただの勘違いであると分かっていても、「これは自分のための物語だ」と思ってしまうような特別な作品が人それぞれにあるのだとして、この小説は今の私にとってまさしくそういう物語だったのだと思います。
そんな感じの電波女第2巻。1巻で布団簀巻き娘からの脱却に成功したエリオの社会復帰話、のように思わせて、実のところはエリオや真も含めた、この宇宙人の町で生きる地球人たちの物語になっていました。みーまー7巻で感じた、この人が普通の日常を描いた小説が読みたいという想いが、まさかこんなにすぐに叶えられるなんて思いもよらず。
章ごとにそれぞれのキャラクターたちの一人称で描かれる文章は、みーまーにあった、過剰な装飾と虚言が落とされているので、ずっと読みやすくて、しかもストレート。
そして全体通じて、ハーレムラブコメっぽい構造で、ラノベらしいネタを振りまきつつ、ごくごく自然にリアリティのある要素を混ぜ込んでくるのが凄く良いと思いました。エリオは真にとってとんでもなく都合のいい存在のように見えて、ひきこもり娘を社会復帰させる難しさとか、奇行の目立ったエリオが町でどう見られているのかといった要素をさらっと入れてきたりとか、滅茶苦茶なキャラクターに見える女々にも抱えた想いがあったりとか、田村の婆さんの姿を覆う濃厚な老いの気配とか。
そういうシビアな部分を切り捨てるわけでもなく、かといって手元へ引き寄せる訳でもなく、ほんの少し遠くの存在としてただそこにあるこの距離感の置き方が、この小説を読んでいて物凄く心地が良い、シンパシーを感じる部分なのかなと思います。本当にちょっとした1文が、所々で心の内にスッと切りこんでくるこの感触は、読んでいてかなりヤバいものが。
話としても、エリオの社会復帰、りゅーしさんのモヤモヤした感情などを描きながら、背後で何やらごちゃごちゃしていた要素が、ラストに向かってだんだんと繋がって、そしてロケット打ち上げのシーンへと結びつく辺りが大変素晴らしかったと思います。
そして何より女々さん人称の7章「ツィオルコフスキーの祈り」が傑作。40歳になった女々さんと死の迫った田村の婆さんの二人が中心という、ラノベの王道から外れすぎな気配すらある話なのですが、それぞれがそれぞれに抱えたゆらゆらとした微妙な想いが流れて重なって、そしてペットボトルロケットの発射に繋がる流れが本当に素晴らしかったです。何がどうヒットしたのかか自分でも分からないのですが、少し読むたびに視界が滲んで本を読み進められなくなったのなんて久しぶりの経験でした。
この物語は、やる気と熱気に満ち溢れてもいなければ、前向きで力強い訳でもありません。当たり前の地球人たちには、当たり前に宇宙へ飛びたつことはできません。それでもこの物語は、そんな世界の中で頑張ったり、悩んだり、落ち込んだり、笑ったりしながら、自然体で在るように在る人々を描いた、生きることへの賛歌であるのだと私は感じました。
だから、これは私にとっての特別。大好きです。