迷走×プラネット / 神尾アルミ

迷走×プラネット (一迅社文庫アイリス (か-02-01))

迷走×プラネット (一迅社文庫アイリス (か-02-01))

地球調査団として派遣された少女ルカルタと彼女に一途な思いを向ける部下の青年ノモロが、日本の片田舎を舞台に繰り広げる物語。とても瑞々しく、優しい一冊でした。
ノモロが行方不明になったことで地球に残り彼を探すはめになったルカルタなのですが、その前向きで興味の向いた方向に猪突猛進な性格もあって、始まったのはドタバタの日々。いきなり地球人の学生に接触して初めて触れるバスケに感動し、間髪入れずに高校に編入する後先の考えなさで周りを巻き込んでいく様子にはお固い軍人のイメージは微塵もなく、おてんば娘、というよりもやんちゃ坊主といった風情です。
そして始まった高校生活。迎えが来るまでの期間限定で、見つかったノモロと二人、異星人であることを隠しながらの学園生活は、目に映るもの全てが新鮮な上に好奇心旺盛なルカルタが持ち前のパワーを多方面に振りまくような毎日。にゃんごろうという漫画にハマって、地球に来て最初の知り合いである少年やその友人、そしてにゃんごろうが好きなクラスメイトと一緒に強引ににゃんごろう部を作り、七森少年の家で集まったり皆で遊んでみたりと賑やかな日々が続きます。
文化、というか星の壁すら軽々と超えて彼ら彼女らが育んでいく友情や、わいわいがやがやと遊んでいる姿には、すごく素朴で純真な感じがあります。高校生という設定ではありますが、受ける印象的には、小学生の頃に、秘密基地を作って遊んだようなあの感覚。その瑞々しくも優しい空気が、田舎町の風景にすごくマッチしていて、作品の空気を魅力的にしていると思いました。ルカルタと七森の母親の会話とか、田植えで泥まみれになるシーンとか、とても良かったなと。
ルカルタがこの田舎町の風景をどうしてそんなに新鮮に想うのか、その理由となる過去を考えるとこの作品は優しいだけの物語ではありませんし、ルカルタが地球でやったことも結果的に彼女たちが地球に持ち込んでしまったものも、笑って済まされるようなものではないのでしょう。ただそれでも、この街で一年にも満たない時間の中で彼ら彼女らが過ごした時間だけは、裏などなく、純粋にきらきらした何かだったのだろうなと思います。だから、分かっていたはずの別れのシーンで、離れていてもずっと友達だという言葉に短い時間で彼らの重ねてきたものを思って、思わずぐっとくるものがあるのでした。
理由はあるにせよどうしてルカルタを団長にしたのかとか、危機管理的にこれで大丈夫なのかとか、少し読んでいて引っかかるようなところもあったのですが、こうやって世界を描く視線というか、感性が素敵だと思える一冊でした。面白かったです。