【小説感想】電霊道士 / 長谷敏司

 uncron.stores.jp

BEATLESS」の設定を利用可能なものとしてオープン化した「アナログハック・オープンリソース」の作例として、作者自身が描き下ろした中編小説です。

人類未到達物の超高度AIによって完全な管理社会となった中国をモデルとした国を舞台に、人々の行動はAI監視のもとに徳点化され徳が高いほどに優遇を受けるというゲーミフィケーションと、祖霊をAI人格として国が管理することによって統制されていて、そこから思想的に外れた者たちを取り締まるサイバー道士は印を結び呪を唱える道術でAIから借りた魔法のような力を用いていたっていうもうこの時点で盛りすぎな設定でかっ飛ばしていく作品。

話としては、そのサイバー道士である王と、徳点ほぼ0の個人主義自由主義を身に受けて育った強烈な性格の女性保険調査員、峰爽がお互い反目しながらも”桃源郷”にまつわる事件を追うバディもの。謎もあればアクションもあるし、峰爽の連れたhIEはレトロJKスタイルで口が悪く、データセンタでもある車は変形してロボットにもなります。この、天ぷら! 唐揚げ! ロースカツ! みたいな情報量と趣味の詰まり方、ぶっ飛び具合とそれを地に結びつける設定の積み上げがすごいです。この辺りはちょっと円環少女を思い出す感じも。

しかしまあ、サイバー道士が呪を唱える行為がAIへのセキュリティ認証の手続きになっていたんだよ!! とか言われると「な、なんだってーーー!!!」ってなってめっちゃ楽しいじゃないですか。楽しくない??

そんな感じに愉快な作品ですが、同じ設定を使いながら「BEATLESS」とは随分雰囲気の違うものになっていて、なるほど「アナログハック・オープンリソース」とはここまで思い切っても良いのだと見せつけるような、サンプルとして強力な一作だったと思います。面白かったです。