【小説感想】屍人荘の殺人 / 今村昌弘

 

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

 

 途中まで読んで、ええ? そういう?? となって、それならそういう感じでと思いながら読み進めたら非常にスマートな解決が起きて、マジか……ってなりました。それ以上は何も言えないですが、これだけの評価を得ている作品には、それだけの理由があるんだなと思います。面白かった。

 

ということで、以下はネタバレありで。

 

 

 

 

 

 

確かに、作中の建物は「紫湛荘」なのにタイトルは「屍人荘」だし、明らかに怪しい男たちが何やら怪しいウイルスを使おうとしているし、そもそも冒頭の調査レポートで集団感染テロとあるし、そんな感じはあった、あったとも。

いやでも、ゾンビ出てくるなんて聞いてないじゃないですか!? ミステリランキング4冠って言われて読み始めて、ゾンビ出てくるなんて思わなくないですか??

そんな驚きから始まったのですが、このゾンビの存在が、立て籠もった紫湛荘をクローズドサークルにして、行動に制限が生まれ、極限状態での人々の行動があるという状況を生み出しています。そして起きるのは連続殺人事件。この作品、ゾンビに迫られるパニックホラーでもあるのですが、やっぱりゾンビは舞台装置という感じで、主眼は追い詰められる中で起きた殺人の謎。犯人はゾンビなのか、それとも人間か。それならば誰が? どうやって? この環境の中で? どうして? という。

でも読んでいる最中は、ゾンビの衝撃が強くて、最初からこの飛び道具で来るなら、この先の解決もなかなかぶっ飛んでいるのでは、と思っていました。語り手が犯人なのではと思わせてきたりもするので、めちゃくちゃ疑り深くなるのも仕方ないと思うのですよ。

ところが、解決編のスマートさといったら。ゾンビの存在とそれに囲まれた館という条件、そして散りばめられていた明らかに事件に関わると思われる情報たち。驚きの大どんでん返しや騙しの仕掛けもなく、無理筋に近いような細かいロジックもなく、バラバラに見えた情報が綺麗に組み合わさって犯人と殺人方法を限定していく流れ。浮かび上がるのはシンプルな、しかも、この特殊な環境だからこそ成立していた事件の形。

ゾンビの出現で言ってしまえばキワモノかなと感じていたところもあり、そこからの非常にオーソドックスで美しい謎解きには、逆の落差というか、してやられた感がありました。それなのに読み終えれば、この状況、この事件、そしてこの謎解きまで含め、何が欠けても成立しない、まさにこれしかないものになっているのが凄いですし、とても良かったです。

それと、探偵役とワトスン役の2人に魅力があるところも良かったです。変人可愛い比留子さんのキャラは、やっぱりね、どうしてもこういうの好きだよね……となりますし、極めて誠実で真っ当ですみたいな顔をして、ちょっとおかしい葉村君もミステリの語り部らしいなと思いました。

しかし比留子さんのワトスン役勧誘、私の不幸を一緒に背負ってくれって言ってるようなもので、後から振り返るに初手からとんでもないこと言ってるなこの人って思います。この2人の関係がどうなっていくのか次作も気になるのですが、文庫落ちを待つと果たしていつになるのか……。いや、ハードカバーか……。