【小説感想】アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー

 

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

 

 伴名練「なめらかな世界と、その敵」があんまり素晴らしく、他の作品も読んでみたいと思って手にとった百合でSFなアンソロジー。その伴名練「彼岸花」ですが、これがもう期待を裏切らない素晴らしさでした。本当になんなんだこの人。

大正時代を舞台に、お姉様との交換日記の形で綴られていく物語。お互いへの手紙となっているそれを重ねるごとに、この女学校のことが、死妖たちのことが、そしてその姫様のことが、更には世界のことが見えてくるという形式なのですが、その背景で死妖の姫と最後の人間を取り巻く世界がぶわっと広がっていって、それでも最初から最後まで描かれるのは二人の閉じた関係性で、それが二人だけの交換日記という形に封じられるのが大変に美しく素晴らしかったです。話は要するに人を滅ぼした吸血鬼の姫と最後の人間である少女の破滅と紙一重の関係性で、そんなの好きに決まってるじゃんというやつなのですが、それを本当に美しく描く人だなと思います。好き。あとやっぱり姉妹百合の人なのだというのをここでも感じたり。

あとはソ連を舞台に超能力研究の被検体とされた姉妹の生涯を描いた南木義隆「月と怪物」が良かったです。強気で聡明な姉が、知恵遅れの妹を守るように生きた後に、非人道的な実験で廃人となった姉を世話ながら妹が普通の生活を最後まで全うする、こういうの好きなんですよね……。実験施設での姉と軍人の関係、そして遥か宇宙での再会まで、これも美しさのある物語でした。

それから小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」も好き。これは許されざる関係と逃避行をもっとポップに仕立てたみたいな、オールドスクールな百合で、男女の夫婦二人一組でやるものだとされているガス惑星での漁に挑む二人の変わり者の少女の物語。おっとりとしていながら懐の深いテラと強気で勝ち気でちょっと脆さのあるダイの組み合わせは魅力的で、独特のリズムの掛け合いがとても良かったです。