恋は光 5 / 秋★枝

恋は光 5 (ヤングジャンプコミックス)

恋は光 5 (ヤングジャンプコミックス)

ずっと愛おしくも何だか面倒くさい人たちだなあとこの恋模様を見ていたのですけど、ここにきてぐっと踏み込んできたというか、核心に迫ってきたという感じ。なるほどあの迂遠さは、恋をテーマにずっと置きながら誰もその中心に触れようとしなかったからなんだろうなあと。
それがこの巻では、宿木さんの恋愛テクニックだとか、北代さんの処世術だとか、東雲さんの理屈が先行するところとか、そういうそれぞれが作っていた壁が破れたり破ったりして、そこに触れようとしているという感じがありました。そうなってくるとやっぱり一気に感情が流れていく訳でそれが凄い。宿木さんの西条に本気であるが故に手練手管でどうにもできなくなっていく行き詰まり方とか、いやなんかもう秋★枝作品やっぱり良いなあと思いました。あと北代さんが相変わらず切ない。「私じゃダメかい?」ってどれだけの覚悟があったのかと! それなのに!
そして、もうひとりの光が見える人として登場した女子高生の方はなんだか別の百合マンガが始まっていてこちらも目が離せない展開に。母からの一方的で過剰な愛情が嫌になっていた彼女は、人気があるけど好きになられても他人に興味ないという先輩に余計に惹かれていきという話なのですが、そんな彼女が先輩に向ける愛がまさに無償の悪意ない重い愛情で、それって母親に向けられてるのと同種だよ……! っていう。
そんなこんなでクライマックスが近づいてきている感じの杜が上がり方をしてきた巻。それぞれの恋模様に、どうも無償の愛っぽいものの感じのしてきた光の謎も含め、続きが楽しみです。

りゅうおうのおしごと! 4 / 白鳥士郎

りゅうおうのおしごと!4 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと!4 (GA文庫)

そうだ。みんな見てくれ。
寒気がするほど愛しい俺の弟子を。
魂が震えるほど熱い、俺の弟子を!!

いや本当にゾクゾクする熱さでした。
将棋が分かればもっと面白いだろうとは思うのですが、将棋の中身がわからなくてもやっぱり面白いこのシリーズ。それはやっぱりこの作品が、勝負の世界とそこに生きる人たちの物語であり、師弟愛の物語だからだと思います。
マイナビ女子オープンというプロアマ混合の最大の女流棋戦で、あいが天衣が、そして桂香がどう闘うのか。それぞれの物語がそれぞれに熱く、中でもやっぱりあいvs祭神の一戦が凄かったです。初めての大きな大会で存分に見せつけられてきた、この幼い才能がどれほどのものか。破格の才能を持つ異端者と対等に張り合う姿の凄み。いやなんというか、このシリーズを読んでいて初めてあいが怖いと思いました。そして明らかになる、彼女が何のためにそこまで勝負に徹して頑張ってきたのか。本当に勝負に熱く、人の繋がりで泣かせる物語だなあと思います。
それからそんな若く大きな才能とは対極にある、前の巻から続く桂香さんの最後のあがき。自分より実力のある人に当たり続けてボロボロで、この先の見通しなんかなくて、それでも降りる訳にはいかない。厳しい勝負の世界の土俵際で、かつての仲間の振り落としながらももがく姿もまた苦しくも熱いものがありました。
そして対戦相手になる他のキャラクターたちも、濃いけれどその生き様が印象的な人たちばかりで。特に、解説などでアイドル的な人気を誇る女流棋士である鹿路庭さんが、どうして研究会クラッシャーとまで言われるようになったのか、読んでいての想像を鮮やかに裏切られる天衣戦も良かったです。ああ、この人も才能と実力というものが残酷に存在する世界の中で、将棋に魅入られた勝負師なんだなあと。
そして、あいたちの物語を描くのであれば、その舞台となる女流棋士の世界に触れないわけにはいかず。それを語る女流名跡の『晒し者』という言葉が、女性への将棋普及のために設けられ、奨励会員やアマチュア強豪よりも弱いことがある女流棋士の立ち位置を示しながら、だからこそ持つべきプライドが語られ、それと相反する存在としての祭神にこれから羽ばたこうとしているあいが対局するというこのドラマがまた。
話が広がって主役級が増える分少し散らかった印象があったり、相変わらずコメディパートがロリコン竜王とJS研ネタに偏り過ぎじゃないかと思ったりもするのですが、そんなことはどうでも良くなるような熱い闘いを見せてくれた一冊。次の巻はついに八一の正念場。愛弟子のこんな姿を見せられて、無様な姿は見せられないだろうと期待しています。
それから、もちろん将棋と弟子が最優先なのはわかりつつも、八一はもう少し姉弟子に気を向けてあげた方が……。だんだん読んでいて可哀想になってきたんですが。

アイドルマスターシンデレラガールズ WILD WIND GIRL 1 / バンダイナムコエンターテインメント・迫ミサキ

アイドルマスター月刊少年チャンピオンという異文化の大陸を暴走族アイドル向井拓海が橋渡しした鬼子みたいな作品なのですが、これがどうしてド王道を行く物語になっていて面白いです。ヤンキーとアイドルってもしかして非常に親和性が高いのでは。というか大体似たようなものなのでは。
時代錯誤な暴走族の特攻隊長をやっていた拓海が子猫絡みというまたベタなあれでひょんなことから関わることになったアイドルの世界。最初はアイドルの世界をヒラヒラチャラチャラした格好をして、変なことして笑いものになるような仕事だとバカにしていた拓海ですが、穴埋めで参加した最初の仕事でステージサイドから見たライブの熱量が忘れられず、プロデューサーの挑発にも血の気の多い性格からまんまとのっかり、そのままずるずると仕事をするような形に。ただ、それもどこか中途半端というか、同僚アイドルの仕事潰した分のケツ持ちだとかなんやかんや理由をつけていつでも手を抜けるような姿勢で。
けれど、同僚の藤本里奈の前向きな姿勢だったり、一緒に仕事した年少アイドル組のプロの仕事だったり、そういうものを見たところに、プロデューサーから逃げるのかと煽られ、走ることは楽しいけれどその先にやりたいことがあるわけでなかった拓海がアイドルとして天下とったると腹を決めるところまでがこの巻。まさに王道というか何というか。
どう見てもチンピラでクズなんだけど割とやるときゃやるっぽいPと、喧嘩っ早く血の気が多いアイドルの組み合わせは、顔を合わせば怒鳴りあうわ拓海の方がすぐに手を出すわでアイドルとはみたいな気分にもなりますが、これがまた中々いいコンビでそういう面でもこれからに期待。あと土方系ギャルアイドルというデレマス本当になんでもありだなの実例の1人な藤本里奈がこんなに良いキャラしていたのかとびっくりしました。もはやギャル言葉ですら無いあの口調でゆるゆるそうに見えて自分は頭悪いと言いながらも、自分のやりたいこと、そのために必要なこと、やられたくないことに対してしっかり芯があって裏表なく前向きっていうのはなかなか格好いいなと思いました。
そんな感じに、塩梅良くオラついた感じがとても読んでいて気持ち良いものがあるマンガでした。意外というか必然というか、なんやかんや生まれるべくして生まれた、みたいな感じ。これは次巻も楽しみです。

東京レイヴンズ EX4 / あざの耕平

ブルーレイ特典だった大友と鈴鹿の話に、十二神将たちそれぞれの掌編を加えた短編集。
鈴鹿の話である「lost-girl with cat」は本当に好きで鈴鹿の魅力がよく出た話だったと思うので、こうやって短編集に収録されて良かったです。そして大友の話も片足を失った黒子時代の最後、最初の芦屋道満戦というまた美味しい話を特典につけていたのだなあと。
他の十二神将たちの物語も掌編ながらそれぞれの個性や魅力がきっちり出ていて、本編ではメインどころには来ない彼ら彼女らですが、それぞれに主役級のポテンシャルを持っているのだなと思いました。本編だけでも今大変なことになっているところではありますが、こんなものを読まされたら、十二神将のスピンオフももっと書いてくれないかな、でも本編の続きも早く読みたいなと贅沢な希望を抱きたくなるゆな一冊でした。良いものだった。

スペース金融道 / 宮内悠介

スペース金融道

スペース金融道

人類が最初に移住に成功した惑星である二番街を舞台に、審査は緩いが金利は高いヤミ金業者の二人組が主にアンドロイドの債権者を「宇宙だろうと深海だろうと核融合炉内だろうと零下190度の惑星だろうと」取り立てるSFコメディ連作短編。
量子経済学やなんやの経済理論にアンドロイドや人あらぬものたちと人類の共生といった何だか難しげなSF要素もありつつ、ぶっ飛んだアイデアと斜め上の展開とぼくと上司であるユーセフの関係の面白さがコメディしていて楽しい一冊でした。まあ、小難しいところは賢い人の考えることはようわからんと思って読んでいれば、主人公であるぼくもさっぱりわからんと反応してくれるので問題ない……はず。まあ、たいていその後にユーセフに馬鹿にされ扱き下ろされるわけですが。
取り立てのためならその無闇に高いスペックを使ってなんだってするユーセフが、命の危険も迷惑ごともガンガンぼくに投げつけつつ前に進んでいくのですが、たまに優しさを見せるような、見せないような、抱えた過去の傷を見せるような、見せないようなその絶妙なバランスと。罵倒されひどい目にあい文句を言いながら、なんだかんだでユーセフを信頼してるような気がしなくもないぼくの関係も良かったです。意外とちゃっかりしていたり、その割に面倒事にあっていたり、自己評価高くないけどなんだかんだとんでもない能力持ってるよねというところだったり、破茶目茶なのに嫌な感じがなくて良い感じ。
投げ込まれる経済とアンドロイドとなんかそれ以外のアイデアの数々は、斜め上へと展開を持っていくのですが、ただとにかく勢いでというよりはしっかり計算された上で斜め上へ伸びているといった印象。それにしたってコンピュータ内の人工生命への金の貸付からその世界にダイブした上で最後は地獄に向かったり、アンドロイドたちのカジノ船で紙切れ(保証がないほど金融商品としては良い……らしい)で作った新通貨で経済的狂乱を巻き起こしたり、寄生虫に脳内で話しかけられてたらナノマシンで世界の危機だったりとなかなかぶっ飛んだ話ばかりだったと思います。でもこの作者が書くと何か凄く頭のいい、高尚っぽい雰囲気を受けるのは単に私が馬鹿なのか。
あとは、アンドロイド関連の話に感じる、人間に対する信頼というか愛着というか、なにか断ち切れない感傷みたいなものが印象的でした。合理性に偏らないための経験主義原則。アンドロイドの無意識として位置づけられた、人間のネットワーク。そこに接続を許されないアンドロイドたちの暗黒網。突き詰めて突き詰めていくことへのブレーキと、突き詰めきった先に何があるのかは、ユーセフの金融への考え方もアンドロイドの理想もオーバーラップする部分があって。最後の「スペース決算期」でのゲベイェフの辿った結末は、その辺りも相まって良い悪いではなくて、なにかすごくセンチメンタルなものを感じました。
その一編は特に顕著ではありましたが、作品全体としても荒唐無稽やことをやる中で、そういう質感というか手触りがちょくちょくと顔を出す、そういうところが特徴的な一冊だったと思います。

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 4thLIVE TriCastle Story 9/3・4 @ 神戸ワールド記念ホール

両日LVで見てきましたデレ4thの神戸公演。とにかく楽しいライブだったと思いつつ、まず演出というか仕掛けの部分でびっくりしたというか感心したのでその辺の感想を。


シンデレラは765ASはもちろん、現状で全アイドルに声がついたミリオンやSideMとも違って、ひたすらにアイドルの人数が多くて、まだ曲が無いどころか声もついていないアイドルもたくさんいます。でも、これまではメインどころのメンバーは決まっていて、彼女たちがライブを引っ張ってきたしシンデレラの中心だった。
それは当然のことだと思いますが、ただ、シンデレラガールズというコンテンツはそれだけではいけないはずなのです。全てのアイドルには彼女たちのプロデューサーがいるのがシンデレラガールズなのだから。であれば。今回の4th、特にメインメンバーを外してきたSSAの1日目で、「誰が出て何を歌ってもシンデレラガールズのライブ」という一つのパッケージを作らないと、この先の未来は見えてこないかなあという気がしていました。
それが、まずこの神戸でモバマスでもアニメでもない、デレステというもので一つのライブを成立させられるということが示せた。そして、それ以上に演出の面で、シンデレラでしかできない、シンデレラに必要なことをやってきたのが、何よりも大きかったと思うライブでした。
後ろのLEDで出れすてモデルが踊るという演出。それ自体は例えば初音ミクのライブなどでもずっと取られている手法に近いですが、同じステージで、同じ扱いの存在として声優(中の人)とキャラ(外の人)が共存する、それはその関係性が特殊なこういうコンテンツのライブだからこそできる仕掛けだったと思います。最初の「S(mile)ING!」で真ん中で踊っている大橋彩香島村卯月だし、後ろのモニタで踊るのは渋谷凛本田未央だし、あれは間違いなくNGsだった、みたいな。
で、その真価はライブが進むに連れて見えてきました。キャスト全員が揃わなかったユニットは、揃わなかったキャストのキャラクターが後ろで踊るみたいなこともできれば、曲どころか声もまだついていないアイドルがバックダンサーでデビューすることだってできる。何が凄いって、ライブデビューするんですよ。確かにあのステージで何人ものアイドルが初出演したんですよ。シンデレラガールズのアイドルは、曲がある子だけでも、声がついた子だけでもなくて、約200人全員だっていうことがライブイベントにおいても示された訳ですよ。これはとても大きい思いますし、デレステの大きな功績だと言っても良いんじゃないかと。
そしてそれを逆手に取るように、5人中4人が出演していた炎陣で木村夏樹が踊っていたところからのまさかの安野希世乃登場というサプライズ。次元の壁を揺るがしていくこういうことができるというのも、新しい扉を広げて演出の幅が広がったと感じる瞬間でした。これからが楽しみ。


ライブ全体的には、3rdで見せたショウ的な路線に行くのかと思っていたら、バラエティ方面に進化したという感じでした。まるでバラエティ番組を見ているみたいな面白さの種類。高森奈津美三宅麻理恵といった面々が一門の一門たる所以を見せつけていくMCに、「ショコラ・ティアラ」の最後で取り出したマシュマロむしゃむしゃしながら「ましゅまろキッス」を踊る大坪由佳という存在自体が面白い何かがあったりと、とにかく楽しい気分になるライブだったと思います。個人のパフォーマンスはもちろん前提としてあるのですが、そこだけで勝負をすることはしない、全体として面白いものをというのもまたシンデレラの特性にあったものだと感じました。


あとは、個別に印象に残ったところの感想を。
・曲的にMVPだったのは「Love∞Destiny」。初めてフルで公開された曲の特にCメロからの格好良さ、そして牧野由依佐久間まゆから滲む情念みたいなのが素晴らしかったです。牧野さんのまゆはかわいいのに時折ゾワッとくる感じが見事としか言いようが無いです。
・サプライズで5人揃った炎陣も良かったです。今までなかったパワータイプの集まりという感じ。推しが強いというか圧が強い感じが「純情midnight伝説」に合っていてとても良かったし、サプライズのなつきち登場からの5人の「Rockin' Emotion」も素晴らしかった。良いユニットが生まれたなあと思います。
・最初のMCで見せたアニサマとはうって変わったホーム感から最初のソロで「S(mile)ING!」ではっしーが歌い出した瞬間、余裕というかなんというか、3rdのあの「S(mile)ING!」から先に進んだ島村卯月がここにいるなあと感慨深く。あと、感情が歌にのるようになったなあと。
春瀬なつみさん、出てきた瞬間に龍崎薫。歌っても龍崎薫、踊っても龍崎薫、動き全てが龍崎薫。もう見た目の雰囲気から存在が龍崎薫でびっくりしました。とんでもなかった。薫はデレステで最初の頃にSRを引いて使っていて、本当にめっちゃ良い子で好きなキャラになっていたので、これはちょっともうヤバいと思いました。よく見つけてきてキャスティングしたなというかなんというか。会場とLVのせんせぇの皆様が成仏していないか心配です。
・「ハイファイ☆デイズ」は盛り上がらない訳がなく、その通り盛り上がりました。そして完全にみりあと千枝と薫だった。いつか是非5人全員で見たいです。
・ハイファイのランキングで松田颯水さんが星輝子を1位にしてあげられて良かったと泣いたMCは、胸にくるものが。ああ彼女らはそういう競争の世界で闘ってもいるのだなと、忘れがちなことを思い起こさせてくれた感じ。そして「毒茸伝説」はめっちゃ格好良かった。どんどん進化してると思います。
・「GOIN'!!!」はやはり強い。問答無用。
・「メルヘンデビュー」は両日相変わらず最高に盛り上がって変に涙腺を刺激する何かでした。出る前に出番が次のゆきんこにかけたという「あたためてくる」という言葉といい、生き様か、生き様なのか。
・初日の眼鏡の台座こと長島光那さんもまさに上条春菜って感じでした。赤のセルフレーム好き。


それから、2日目の「Snow Wings」。サプライズでのNGsではっしーが泣いたという話を。
大舞台でも、センターでも、とにかく動じない、泣かないというのがシンデレラのはっしーのイメージなんじゃないかと思うのですけど、3rd2日目のアニメを再現した流れで見せた涙、アニサマでのド緊張して上擦った声と、シンデレラを追いかけてる人にも、なんとなくここのところの変化は見えていたんじゃないかと思うのです。
でも、正直ここであんなに、今まで見たことがないほど泣くとは思ってなかった。
これまでの活動があって、そしてあのアニメがあって、大橋彩香にとっての島村卯月がどれだけ大きな存在になっていたのか。そして島村卯月にとってのNGs、渋谷凛本田未央がどれだけ大きな存在になっていたのか。今回シンデレラのライブとしては珍しくNGsとしては1人での参加だったところに、2人がああいうサプライズの形で隣に来たことが、島村卯月としてステージに立っている彼女にとって、どれだけの喜びと安心をもたらしたのか。そのシンクロ率の高さが、どの場面よりもあの場面での涙に繋がったのだろうなと。あそこで泣いていたのは、果たして大橋彩香だったのか、島村卯月だったのか、みたいな。
でもそれだけで今までのはっしーが泣いたかというと、きっと泣かなかったような気がしていて、やっぱりそれと同時に、大橋彩香という人の変化があると思うのです。1stアルバムからライブの時にも凄く感じたのですけど、感受性というか、感情表現というか、そういうものが、最近開かれつつある感じがしていて。今までの何でもソツなくこなすあの動じなさを生み出していたのは、本人の資質であると同時に、何に対しても一線を引くような、それをそれとして自分の心から切り離すようなスタンスだったと思います。でもそれが変わってきた。本人が「最近人間性を取り戻してきた」と言っているような変化。
そうやって感情を素直に出すようになってきたことで、こんなふうにすぐ泣くようになったり、彼女は脆くなるのかもしれません。でも表現者としての道を選んだ彼女にとって、それはとても大きな進歩なんじゃないかなと思います。そして、そうやって全部でぶつかれるだけの環境が今あって、支えてくれる仲間がいて、それをすることができる表現者としての活動、今回の島村卯月としてのライブのような、があるというのは、ファンとしては本当に喜ばしいことなんじゃないのかなと。
だから、今回この場面で見せた涙というのは、本当に重いと思います。また、ファンとしてそういう瞬間を追いかけていける、そしてその先にある可能性を見ることができるというのは、こんなに幸せなことはないと、改めて思いました。

メロディ・リリック・アイドル・マジック / 石川博品

これは良かった。良いものだった。
国民的アイドルグループ・LEDに反旗を翻す女子高生アイドルたちがしのぎを削る沖津区を舞台に、アイドルを始めた少女たちと、彼女たちのマネージャになった少年の物語。ですが、ちょっとこの独特の雰囲気をなんと表せば良いのか。
まず、この作品のアイドルってLEDという洗練された、反面作られたものでもあるメジャーとしてのアイドルがあって、それに対して反目するアイドルが吹き溜まる沖津区なわけです。なのでそこに感じるのは地下アイドル感というかインディー魂というか、ぶっちゃけパンクでロックンロール。ダイブしてモッシュしてリフトして熱狂! みたいなライブがいきなりぶっこまれるは、アイドルたちは歌って踊って客を殴ってみたいな。下手でも良い! やるかやらないかだ! 熱量! 反体制! LEDは死ね! みたいな。まさにパンク。
流石にアイドルだからかラノベレーベルだからかセックスドラッグロックンロールにはならないのですが(アコはチョコをキメていた気がしますが)、この限られた空間、限られた時間、その中で何かが爆発する青春の熱狂みたいな手触りが、石川博品らしい少年少女の描写と相まって本当に素晴らしいです。拙いとかプロフェッショナルじゃないとかそういうことではない、合理的かどうかも関係ない、井の中の蛙でも良い、むしろ井の中だから良い、そういう感じ。先輩を見てきてアイドルをやろうとしたアーシャがいて、過去に闇を抱えているアコがいて、アコの歌でまさしく沼に落ちてマネージャになったナズマがいて、プロデューサーを受けた国速がいて、何かがどこかで触れれば火がつくような、そして実際火がついた、そういう刹那の時間。その中で、アイドルになるということ。

やるかやらないか、それだけだ。
下火はずっとアイドルを夢見ていた。だが百合香のいうとおり、いますぐやればよかったのだ。やらなきゃアイドルじゃないし、やってしまえばアイドルだ。

この青春にしか許されない、青春の全てであるような感じ。少年がいて少女がいて、彼女たちはこの時アイドルだった、そういう物語でした。小説的には大分アンバランスな感じがするのですが、その辺りも含めて、ああ青春だなと思うような一冊。
あとそんな熱狂の中にあっても意外とみんな外の世界、ここを出た後のことは考えているフシがあるのも絶妙にリアル感があって面白かったです。そして外の世界を彼ら彼女らが否定しても、作品としては否定することはないですし。
そしてこのタイトル。「メロディ・リリック・アイドル・マジック」。まさにそういう話だったなあと。素晴らしかったです。