平安残酷物語 / 日日日

平安残酷物語 (講談社BOX)

平安残酷物語 (講談社BOX)

時代は平成から平安に移り変わり、桃色の虫に覆われて、大人は死ぬか猿になった時代。貴族の特権となったひきこもりの私が綴る、かわいらしくも残酷で、悪夢のような物語。
これはショートショート36話からなる作品なのですが、とにかくおかしな背景を背負っています。全くの不条理で侵食されて、滅びに向かう世界。大人はいなくなり、子供だけが生き残り、荒廃したかと思えば、何故かインフラ的な意味で普通に生活は成立していて。おかしな虫に、おかしな生命体に、ひたすら侵食されている世界。精神を壊すそれが私にも働いている以上、それがどこまで現実かなんて一切の保証はなくて、ただあるようにあるひきこもりの私の生活。
全てがアンバランスで、温いのかと思えば急にシリアスになって、緩いようで過剰で。友達の女の子、女装メイドとなるペットの毛虫、そんないわゆる萌えなキャラクターが繰り広げる緩く可愛らしい日常は、いつだって狂気が入り混じっているような。それぞれの話のオチは笑っちゃうくらい不条理に残酷なこともあって、取り返しが付かないかと思えば次の話は何もなかったように始まる。ふわふわと春色の悪夢めいた数ページが、何度も何度も繰り返されて、でもそこで繰り広げられるのはラノベ的日常会話だったりして、酔いそうになる気持ち悪さがあります。
なにより怖いのは、このおかしなおかしな、明日滅ぶかも知れない不条理な世界で、私はそれなりに幸せに暮らしているということ。そして確かに、この世界の中で、ひきこもりの私の暮らしが、巨大な白い毛虫を愛でるその生活が、悪くないものに見えたりもする、感覚のギャップ。それは世界観自体、整合性の取れないものだからこそ感じるものではあるのですが、そのズレた感じがある種現実にも通じるところがあるように思えて、一層に気持ち悪いものに思えるのです。
そしてふわふわとした現実感のない話の中で、急に突き刺さるような母と娘の関係、私と友人の関係の物語。そんなところは作者らしいと思いつつも、こんな世界観の、こんな混沌とした物語が、一体どこから出てきたのかと不思議になる一冊。それなのにこの絶望と希望の形には、よく知っているような心に引っかかるものがあって、読んだ後無性に胸がざわざわするのでした。講談社BOXらしいというか、ファウストの系譜にある作品に思えて、たぶん私の惹かれてしまう何かが、ここにはあるのだと思います。