地上はポケットの中の庭 / 田中相

地上はポケットの中の庭 (KCx)

地上はポケットの中の庭 (KCx)

死とか、流れる時間とか、臆病になる気持ちとか、そういうものを扱った5つの短編からなる一冊。それに対して、頑張れとか、大丈夫とか、許しとか、そういう大仰なものではなくて、ちょっとだけ肩の力がストンと落ちるような、それはまたそういうものであると思えるような、小さな救いを感じるような作品でした。言葉で語りすぎることも、描きすぎることもせず、けれど確かにここには空気と一緒に何かがあるような感じ。ごちゃごちゃとうるさくならず、どこか軽やかで洒落ていて、けれどそれだけではない。読み終えて、とても良いものを読んだと思えるような。これはもうセンスとしか言えない何かで、素晴らしかったと思います。
短編の中では表題作でもある「地上はポケットの中の庭」が好きです。終わりを怖がってきた臆病な老人が誕生会に回想する人生、そして目の前に広がるのは子供たちの、孫たちの姿。「なぜか不思議と悪くない」という言葉が、さりげないのに、とても強く印象に残りました。